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卓球を愛した水谷隼という男。最高のフィナーレを迎えた頼れる兄貴はレジェンドとして生き続ける

佐藤俊

2021.08.16

同郷の伊藤と組んだ混合ダブルスでは、中国を破って初代チャンピオンに輝いた。(C)Getty Images

同郷の伊藤と組んだ混合ダブルスでは、中国を破って初代チャンピオンに輝いた。(C)Getty Images

 眼に問題を抱えた水谷の葛藤は想像に難くない。

 それ以降、特殊なコンタクトレンズを使用したが、細かいボールの動きが分かりづらくなり、使用をやめた。サングラスも試したが見えやすくなるが曇ったり、ズレたり、一長一短があり、根本的な問題解決には至らなかった。時間の経過とともに悪化する視力に直面し、水谷は卓球を続けることに迷いを生じたこともあったが、それでもラケットを置かなかった。

「視力が悪くなる中でも卓球をやり続けられたのは、オリンピックがすぐ目の前にあるから。そこでメダルを獲るチャンスがあるということが唯一の自分のモチベーションになっていました」

 2019年、眼の影響により、東京五輪が最後と心に決めた。

 そのシーズンの全日本選手権で2年ぶり10度目の優勝を果たすと、「今年で最後にしたい」と翌年の全日本選手権には出ないことを宣言した。

 東京五輪は、シングルスの出場こそ逃したが、団体戦と混合ダブルスの出場を決めた。大会が迫る中、眼科医を訪れて治療を進めると光明が見えた。コンタクトの使用よりも裸眼の方が見やすくなったのだ。また、「屋内LSD照明の眩しさをおさえたい」ということからSWANSのサングラスを使用した。サーブの時、上目で見ても、ラリーで大きな動きをしてズレなくなり、眩しさを抑え、白球をハッキリととらえられるようになった。水谷の視力は最後の舞台に向けて、こうして整えられていった。
 
 東京五輪、卓球競技のスタートとなる混合ダブルスでは、これまでにない水谷を見せた。ドイツ戦、3-3で迎えた第7ゲーム、水谷と伊藤は6-10とマッチポイントを握られた。そこから驚異の粘りを見せて16-14で勝った。決勝の中国戦では、0-2のセットカウントから大逆転を演じ、金メダルを獲得した。

「水谷選手がいたから勝てました」

 ペアの伊藤は、そう語ったが、東京五輪での水谷の姿勢は、これまでにないものだった。伊藤曰く、いつもの水谷は劣勢になるとしょんぼりしたり、下を向くことが多かったが、今大会はいつも前を向いて、「いけるぞ。大丈夫だ」と前向きな言葉を発していたという。試合で追いつめられた伊藤が下を向きかけたことがあったが、水谷のポジティブな声掛けで奮起することができた。
 

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