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卓球を愛した水谷隼という男。最高のフィナーレを迎えた頼れる兄貴はレジェンドとして生き続ける

佐藤俊

2021.08.16

団体戦の銅メダルを決めたのは水谷だった。(C)Getty Images

団体戦の銅メダルを決めたのは水谷だった。(C)Getty Images

 そういう水谷の前向きな姿勢は、男子団体戦でも見て取れた。

 ダブルスを組んだ丹羽孝希がミスしても「大丈夫、思い切っていこう」とずっと声をかけつづけた。丹羽はその言葉に救われ、ミスを恐れることなく、積極的に戦うことができたという。

 張本智和にとって水谷は精神的な支柱であり、頼れる兄貴だった。

 男子団体戦のブロンズメダルマッチで水谷が勝って、銅メダルを獲得した時、コーチベンチから最初に飛び出したのは張本だった。水谷は「あまり気づかなかった」と笑い飛ばしていたが、そこに二人の関係性が読み取れた。

 水谷は、混合ダブルスで金メダル、男子団体戦で銅メダルを獲得してキャリアハイを実現し、自らの仕事をまっとうした。

「東京で五輪が開催されると決まってから集大成だと思って一生懸命ずっとやってきた。そこで最高の結果を残せて良かった」

 そう語る表情は、やりきった感があり、すっきりしていた。
 
 一方で、卓球バカを自認する水谷は、悔しさも噛みしめていた。

「もし目が完治するなら40歳でも50歳でもやりたいと思っています。でも、治療法はないということで、悔しいですけど、自分の冒険はここまでかなと思う」

 水谷のこの思いを聞いた張本と丹羽は何を感じただろうか。

 張本は、今後、水谷不在の男子卓球界で名実ともにトップ選手として走り続けることが求められることになる。それが水谷に対する恩返しになる。

 有形無形の財産を日本卓球界に残して、水谷がラケットを置く。

 ただ、その姿は、これからも長く人の記憶に残るだろう。少なくとも今回の混合ダブルスの金メダルでこれから五輪の度に、その姿を画面で見ることができるはずだ。どのスポーツも最初に頂上を踏破した選手は永遠に語り継がれ、レジェンドとして生き続けることになる。

 水谷は、そういう選手に昇華した。

文●佐藤俊(スポーツライター)

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