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フィギュア

世界王者の宇野昌磨ですら「相当緊張した」自己ベスト連発の男子シングル。好演技の相乗効果が生んだ”過去最高レベル”の激闘譜【フィギュア全日本選手権】

湯川泰佑輝(THE DIGEST編集部)

2023.12.28

最終グループで圧巻の演技を見せた左から鍵山、宇野、山本。写真:金子拓弥(THE DIGEST写真部)

最終グループで圧巻の演技を見せた左から鍵山、宇野、山本。写真:金子拓弥(THE DIGEST写真部)

 軒並みパーソナルベストが連発し、表彰台の行方が目まぐるしく変わる史上空前の事態に会場は異様な雰囲気に包まれた。

 残り3人となり、トップに立てば表彰台が確定する重要な場面で登場したのは、今季大躍進を遂げた20歳の鍵山。父でコーチを務める正和氏、そして今季から新コーチに就任した2014年ソチ五輪銅メダリストのカロリーナ・コストナー(イタリア)氏が見守るなか、若武者は今季最高のパフォーマンスを見せる。

 冒頭の4回転サルコウを高く鋭い回転で降りると、GOEは驚異の「4.30点」とプラス評価。2つ目に予定した4回転を含んだ3つのコンビネーションを降りると、その後のジャンプはノーミスで終え、曲が大きく盛り上がる後半にはステップシークェンスで思わずつまずく場面も。のちに「ほとんど足に力が入らなかった。うわっ、やってしまった」と一瞬焦ったことを明かしたが、その後は冷静に対応した。

 動きが激しくなり、氷上を躍動する鍵山。スピン、ステップでも最高評価のレベル4を獲得する完璧な演技で、最後は両手を天井に向かって突き上げフィニッシュ。スタンディングオベーションに包まれ、すべての力を出し切った20歳は右手で力強くガッツポーズ。喜びを爆発させた。

 銅メダルを獲得し、今季ベストだったグランプリファイナルの得点を約10点も上回る198.16点を叩き出し、合計は292.10点。暫定トップに浮上した鍵山が、表彰台を確定させた。隣では父親が涙目になるほど、昨シーズンの不振を吹き飛ばす見事なパーフェクト演技だった。
 
 メダルを確定させた鍵山は、「みんなが完璧な演技をする中で、僕もそういう思いが強かった。(全日本)独特の緊張感に負けない演技ができた」と満足するも、やはりステップでつまずいた場面には少し悔いが残るようで、「ひと言でいうとすれば、『嬉しいけど悔しくて、悔しいけど嬉しい』という感じです」と本音を吐露。年明けには、構成をさらに上げて「パーフェクトな演技が出来るように頑張りたい」と前を見据えた。

 ひとつもミスが許されない極限状態のなか、初の表彰台を狙う山本草太も好演技が続く雰囲気に後押しされた。冒頭の4回転サルコウ、続く4回転+3回転の連続トウループなど、すべてのジャンプを成功。演技中には右手で何度もガッツポーズが飛び出した。

 パーフェクトな演技で滑り終えると、両手で再びガッツポーズ。すると23歳の目からは涙が溢れ、これまで度重なる怪我に苦しんだ姿をそばで見守ってきた山田満知子コーチと抱き合った。注目の得点はフリー、合計点ともに自己ベストを更新。鍵山の得点にはわずかに届かなかったものの、10度目の出場で初めて全日本の表彰台を掴んだ。

 念願のメダルを手にすると、「結果とか順位っていうものを本当にあまり気にせず、自分が練習でやってきたことをすべて出し切ろうと。それがあまり強い緊張感につながらず、すごくいい演技につながったんじゃないかな」と会心の出来を振り返る。

 加えて、「山あり谷ありで苦しい日々だったが、ここまで頑張ってきて良かった。満知子先生が『本当に良かった』と言ってくださった。リンクを上がって熱いハグをくださって涙が出ました」と、リンク脇で起きた熱いエピソードを思い返した。
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