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ラグビー

雪の秩父宮に響いた田中史朗の「声」。歴戦のベテランが見据える新天地キヤノンの意識改革

吉田治良

2020.01.19

田村(写真)は「フミさんが来て、やりやすくなった」と田中の加入を喜ぶ。写真:滝川敏之

田村(写真)は「フミさんが来て、やりやすくなった」と田中の加入を喜ぶ。写真:滝川敏之

 そんななかでも、ひと際大きな声を張り上げていたのが、キヤノンの田中だった。

「前見ろ!」「下がれ!」「行くんだよ!」「起きろ!」

 ワールドカップ後のバラエティー番組で見せていた、あの穏やかな表情からは想像もつかないような怒声が、冷たい空気を切り裂く。そうして味方を叱咤し、さらにジャパンでもコンビを組んできた司令塔の田村と頻繁にコミュニケーションを取りながら、チームを軌道修正していったのだ。

 トップリーグ優勝5回を誇るパナソニックから、優勝経験はなく、この2シーズンは10位、12位と下位に低迷しているキヤノンへ移籍し、田中はチームメイトに物足りなさも感じていたようだ。

「パナソニックや日本代表では当たり前にやっていることができない。特に不足しているのがコミュニケーションで、自信がないからか、きちんとしゃべることもできない選手もいます。だから今は、嶋田(直人)、庭井(祐輔)の両キャプテンとも話しながら、若手に発言の機会を与えるようにしている。自分のプレーがどうこうより、チーム全体にこれまで培ってきた経験を落とし込むことを意識しています」

 チームの意識改革──。それが移籍1年目の田中が、みずからに課したテーマなのだろう。そんな想いが伝わる「声」だった。
 
 キャプテンの嶋田は、田中についてこう言う。

「試合中にチームを落ち着かせてくれる存在。『今は慌てるところじゃない』、『自分たちのラグビーをやろう』と、そんな言葉をかけてくれる。指示もシンプルで、とてもやりやすいですね」

 想いは、「声」だけではなく、もちろんプレーからもひしひしと伝わってきた。

 的確な状況判断による球出しはもちろん、相手ハーフ団への強烈なプレッシャー、そして小さな身体を投げ出すようなタックルでチームを鼓舞。オールブラックス経験もある三菱重工の巨漢LO、ジャクソン・ヘモポ(195㎝・112㎏)に恐れずぶつかり、跳ね飛ばされ、引きずられながらもその身体にしがみついていたシーンが、とりわけ印象に残る。
 

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