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ラグビー

【ラグビーW杯をヒット記事で振り返る!】開幕戦の勝利は通過点。日本代表は「本物のラグビー強国」への一歩を踏み出した

吉田治良

2019.11.10

「次はやっとラグビーができる」とこぼした田村の言葉は偽らざる本心だろう。写真:茂木あきら(THE DIGEST写真部)

「次はやっとラグビーができる」とこぼした田村の言葉は偽らざる本心だろう。写真:茂木あきら(THE DIGEST写真部)

 その後、64分に田村が約45メートルのPGを決め、69分には相手のクリアキックのミスからまたしても松島がトライを奪い、ロシアを突き放す。日本人選手として初めてワールドカップでハットトリック(3トライ)を達成したスピードスターを、ジェイミー・ジョセフHCは「フェラーリのようだった」と称えたが、確かに松島だけがただひとり、立ち上がりからプレッシャーとは無縁で心からゲームを楽しんでいるように見えた。
 
 結局、試合は30ー10で日本が勝利。立ち上がりはどうなることかとひやひやさせられたが、「自分たちで流れを修正して」(HO堀江翔太)、途轍もない重圧のかかった開幕戦を、しかもボーナスポイントまで手に入れてモノにできた意味は大きい。

 次の対戦相手は、現在の世界ランキング1位のアイルランドだ。紛れもない強敵である。それでも、苦しみながらも掴んだこの日の勝利で、チーム全体が落ち着きと自信を取り戻したことだけは間違いない。
「今日は緊張状態がずっと解けなかった。次はやっとラグビーができる」
 
 田村の言葉は偽らざる本心だろう。

 試合終盤は足が止まったロシアだが、4年前の日本が南アフリカとの初戦にすべてをぶつけたように、彼らも万全の準備を整えてこの日を迎え、「本当に強かった」とリーチに舌を巻かせるほどの素晴らしいパフォーマンスを見せてくれた。

 試合後、晴れやかな表情で観客席に手を振り、ロシア国旗を広げて記念撮影をする選手たちからは、「格上と互角に渡り合った」という満足感が伝わってきた。

 その一方で──。

 勝利の喜びを爆発させるわけでもなく、安堵を滲ませながら淡々と、スタンドを埋め尽くした超満員のサポーターの声援に応えるジェイミー・ジャパンの面々。史上初のベスト8進出を目指す彼らにとって、この1勝は長い道のりの重要な第一歩ではあるが、いつまでも余韻に浸っているほど特別な感慨を呼び起こすものでもないのだ。

 堀江は言った。

「初戦というのはこういうもの。まあ、良い勉強になったんじゃないですか」

 1987年の第1回大会からの7大会でわずか1勝(2分け21敗)しか挙げられず、長く敗北の歴史を重ねてきた日本だが、前回大会の快進撃と充実のこの4年間を経て、もしかすると“本物のラグビー強国”へと変貌を遂げつつあるのかもしれない。

 9月28日のアイルランド戦で、その真価が問われる。

取材・文●吉田治良(スポーツライター)
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