次にビッグタイトルを手に入れたのは、４歳の春シーズンのことだった。10番人気の低評価で出走した安田記念（ＧⅠ、東京・芝1600ｍ）で、勝ったアサクサデンエンとクビ差の２着に入って牡馬相手にも勝負になるだけの力量を示し、次いで迎えた宝塚記念（ＧⅠ、阪神・芝2200ｍ）。タップダンスシチー、ゼンノロブロイ、ハーツクライ、リンカーンら、牡馬の強豪が集結した一戦で、スイープトウショウは前走に続いて11番人気という低い評価しか得られなかった。

　しかし、いつもよりまともなスタートを切った彼女は中団の後ろ目を追走。早めの仕掛けから直線半ばで先頭に躍り出ると、猛追するハーツクライをクビ差抑えて勝利。これは1966年のエイトクラウン以来39年ぶりとなる牝馬の優勝だったが、メンバー構成を考えると、これは牝馬の時代においても特に価値が高い、値千金の一撃となった。

　宝塚記念の衝撃的な勝利を経ても、調教拒否やゲート入りを嫌がる悪弊は止まず、スタートの不安定さによって結果が左右されたスイープトウショウ。しかし同年のエリザベス女王杯（ＧⅠ、京都・芝2200ｍ）は、またも末脚一閃の爆発的な追い込みによって３つ目のビッグタイトルを獲得した。その後も京都大賞典（ＧⅡ、京都・芝2400ｍ）の勝利など、好レースを披露していた彼女は、６歳秋のエリザベス女王杯３着を最後に引退。ファンに鮮烈な印象を残し、生まれ故郷のトウショウ牧場で繁殖生活に入った。
  　2015年10月いっぱいで、トウショウ牧場は閉場。スイープトウショウはノーザンファームに売却されて、当地で繁殖生活を続けていたが、2020年の12月に腸捻転を起こしてその生涯を閉じた。19歳だった。

　かつて馬産地・日高を代表する存在だった名門牧場の落日を前に、破天荒なキャラクターとともに図抜けた能力で牡馬のトップホースを粉砕したスイープトウショウ。管理調教師の鶴留明雄をして、「調教を積めないのに、こんなに走る。まともに調教できたらどれだけ強くなるのか…」と嘆かせた稀代の癖馬だったが、彼女の活躍をいま振り返ると、その輝きは一層まばゆく映る。（文中敬称略）

文●三好達彦

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