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フィギュア

羽生結弦が自らに問う「生きていることの役割」 『notte stellata』で野村萬斎と描いた、鎮魂と再生の物語

沢田聡子

2025.03.10

羽生は地元である宮城で復興への祈りを込めて滑りきった。(C) Getty Images

羽生は地元である宮城で復興への祈りを込めて滑りきった。(C) Getty Images

 セキスイハイムスーパーアリーナは、震災時には遺体安置場として使われていた会場でもある。野村は、囲み取材で次のように語った。

「大きな会場で、皆さんの熱気と活気が感じられましたね。本当に生きている人間がこれだけ集まると、ものすごく盛り上がる。ここが(遺体)安置場であったということと、でもやっぱり我々はいろんなものを、一種の遺産というかね、いい意味でも悪い意味でもいろんなことあると思いますけど、『そういうものを受け止めながら自分達も生きている』ということを共有できたのは、素晴らしい催しだなと思いました」

 そして後半の最初に演じられたのは、羽生と野村による『SEIMEI』である。練習着姿で登場した羽生が競技会さながらの6分間練習を行ない、いったん退場。そしてあのイントロが流れ、舞台上の野村が氷上の羽生を操るようにプログラムが進んでいく。野村演じる安倍晴明が、式神に扮した羽生に力を与える設定だ。

 今までは安倍晴明としてプログラムを滑ってきた羽生は、今公演では異なるアプローチで『SEIMEI』を滑った。羽生は「決してミスをすることができないというプレッシャーと共に、本当にオリンピックかなと思うぐらい緊張しながら滑りました」と吐露した。

「なかなか今までの『SEIMEI』と感覚、役割が違って。ちょっとこじつけかもしれないですけど、自分が今この『notte stellata』というアイスショーに出演させていただいていることとか、自分が生きていることの役割とはなんぞや、ということを、改めて問われているような気もしました」

 クライマックスを飾る羽生のステップシークエンスは平昌五輪の雄姿を想起させ、またプロとして歩んできた道程も重なって、圧倒的な輝きを放った。

 そしてリンクには、安倍晴明が魔除けの呪符として用いていた五芒星が照明によって描かれた。野村は、「五芒星をスケートリンクに描くということも、そこにあるものに対する思いになったと思います」と言う。

「そういう意味で、3.11につながる曲にもなったかなと」
 
 初日を終えた羽生は、充実感をにじませた。

「見に来て下さっている方々が立って拍手を送って下さったり、声援を送って下さったりしている姿を見て、『この場で生きてらっしゃるんだなあ』ということを、この『notte stellata』だからこそ、改めて感じられて。僕らが震災の時に立ち上がっていけたように、その絆みたいなものが、どんどんどんどん広がっていってくれたら嬉しい」

 日本の伝統芸能を受け継ぐ野村、プロとしてなお高みを目指す羽生、志を共にするスケーター達。彼らの演技に熱く反応する観客を含め、『notte stellata2025』は生命の祝祭というべき至高のアイスショーとなった。(文中敬称略)

取材・文●沢田聡子

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