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食と体調管理

常に観察し、失敗を怖れず挑戦を繰り返して前へ――。「失敗は成功のもと」を実証してつかんだオリンピック代表キャプテン。食生活からもうかがえるブレない姿勢

THE DIGEST編集部

2023.11.01

写真:GettyImages

写真:GettyImages

■再び本気でハンドボールを。そしてTikTokで一躍人気者に

――フランスでは6シーズンを過ごしました。2017年シーズンには『ハンドスターゲーム2017』で外国人国籍選抜チームとして、日本人ハンドボーラー史上初のオールスター出場も果たすなど大活躍しました。フランスで得た経験は大きいのでは?

 もとからポジティブな人間でしたが、フランスでさらに強さが増したのかなと。自分の意見をはっきり言えるようになりましたし、自信を持って生きていくことができるようになりました。それは、ものすごく大きい変化だと思います。

 日本は協調性を大事にする国なので、あまりに発言が過ぎると目立ってしまう。でも自分の考えていることをはっきり言って、目立つ発言になることで他人にいい影響を与えられる可能性がある。人に好影響を与えると判断したら、恥ずかしがらずにはっきり発言する。すると日本という国ではポジティブな影響力を持ちやすい。そういったポジティブさをフランスで鍛えることができたというのは大きいです。

――日本代表へは2016年から選ばれていましたが、東京2020オリンピックではキャプテンとして出場しました。土井選手のキャプテン像とはどのようなものでしょう。

 キャプテンシーといっても人それぞれです。リーダーの形に正解はありません。その時々のチーム、メンバーに合わせて、導いていくやり方を変えていかないといけないとも思います。僕はどちらかと言うと、引っ張るよりも導くタイプ。

 ボートレースに例えると、みんなでボートに乗って漕ぐ際に、一番速く進む方法はみんなが同じタイミングで漕ぐことです。後ろから見ていれば、タイミングがズレてる人がいればわかる。そういう状態の人は、メンタルが不調になって力が出せなくなっている。チームの中でその異変にいち早く気づいて話をして、メンタルの調整をして、チームと同調してまた前に進んでいくようにする。

 このように、チームの一番後ろに立って観察し、軌道修正していくのが僕のリーダー像です。よく「キャプテンがチームを引っ張る」と言いがちですが、引っ張るのはエースがやることであってキャプテンではないのかなと。

――オリンピック前にはTikTokの「レミたん」で大人気になり、一気にハンドボールに対する注目度も高まりました。

 TikTokは最初、友達に誘われて始めました。彼らを笑わせるためだけにしかやってなかったのですが、バズったことがきっかけでTikTokの可能性に気づかされました。フォロワーがハンドボールと全く関係ない人だけで3000人ぐらい増えたんです。でも、だからといって、ハンドボールのことを載せてもみんなに興味を持たれない。

 だから、まずは自分という人間を好きになってもらってから「ハンドボール選手です」と公表すれば、応援してくれるかなと。基本的にハンドボーラーであることはずっと隠していて、それから公表するという作戦でした。

――TikTokでは非常にコミカルな映像が楽しめますが、土井選手の人柄がでているのでしょうか。

 もともとそういう人間です、はい(笑)。人を楽しませることが昔から大好きで、普段はTikTokの映像のままです。それと今まで培ってきた観察力、分析力はTikTokでもすごく活かされました。始めた時にまずは既にバズっている人の映像を見まくって、どうしてバズっているのかを調べました。

 すると、人間が全てやるのではなく、AIが自動でおすすめを選別し載せていることが分かった。ではどういうアルゴリズムでやっているのか、どうしたらおすすめに載りやすいのか。それを知ることが一番重要だと気づいて、分析しまくっていました。
 
■目標としていたオリンピックで待っていた闘い

――そして迎えたオリンピック。重圧は相当なものでした。ポジティブで明るい土井選手が部屋で震えていたと。

自分で自分をかなり追い込んでいた状況でした。TikTokを通してハンドボールを有名にする活動をしながら、認知度が上がれば上がるほど逆に自分の首を絞めている状態になって、一本シュートを外すだけで「TikTokやってないで練習しろ」と言われましたね。僕は基本、努力をしているところ、頑張っている姿はあまり人に見せたくはないので、毎日僕が練習していることも知られていない。だからか、適当に頑張っているという程度の印象になってしまうこともあったと思います。TikTokの内容を見ていると、それはしょうがないことでもあり、分かっていることでもあったのですが、それで結果を残さなければすぐ叩かれてしまう状況を作り出してしまっていました。認知度に比例するようにプレッシャーが乗っかってきて…。いろんなものと闘っていましたね。

――その闘いは、これまでの闘いとはまた別ものでしたか。

そうですね。日本へ帰ってきた時、誰も本気になって日本のハンドボール界を変えようとしている人がいなかったことに衝撃を受けて誰もやらないのであれば自分でやろうと覚悟を決めてやってきました。こういう重圧が待っているのは予想していたし、あとはそれに向き合うのみだったのですが…。でも、それを乗り越えるといつも以上に燃えた状態で試合に臨むことができて、良いメンタルで大会に臨めたと思います。

――結果は1勝4敗でグループリーグ敗退。目標だったオリンピックの舞台へ実際に立った時はどのような感情が訪れましたか?
 
「感謝」の気持ちが最も強かったです。目標とするところ(ベスト8)には届きませんでしたが、ヨーロッパ勢に1勝することができました。決勝トーナメント行けなかったので、あまり注目されていないですが、日本のハンドボールにおいて大きなことは成し遂げられたと思います。最後の試合、3点差で勝てば決勝トーナメントに進出できる本当にギリギリの状況で届かなかった。もちろん悔しくないかと言われたら悔しいですけど、僕は本当にすべてを出し切ったつもりでいるので、一切悔いはないです。

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