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食と体調管理

「納得いくまで空手を続けたい」空手・植草歩が東京五輪後にたどり着いた自分らしさ。変化した競技への向き合い方と日々を支える食生活

元川悦子

2023.04.03

写真:Getty Images

写真:Getty Images

――2022年は3か月間、海外を回られたんですよね。

 はい。人生観が変わりましたね。

 東京五輪までの自分は気持ちの休まる日が全くなかった。朝の筋トレから空手の練習、リカバリで毎日心身ともに疲れていたし、ずっと不安だったんですよね。「空手界の今後のために」と取材も沢山受けていたので、月曜日のオフもなかった。

 自分の中でも「1日休んだら筋肉が減る」「空手の間合い感が薄れる」と考えてしまって、どんどん追い込まれていきました。自分を律しているようで律しきれていなかった。だからこそ、東京五輪で勝てなかったのかなと思います。

 その後、海外に行って、他の選手から「歩はやりすぎだ」と言われたんです。「自分でクリエイティブに作って行くべきなのに、それをやっていない」と指摘されて、図星すぎましたね(苦笑)。ヨーロッパの選手は2時間しか練習しないし、自主練もストレッチしかしない。それだけ2時間に全力を注いでいると知って、全てが覆された気がしました。

 私は「200キロの重量でスクワットをしている女の子がギャルっぽいんだ」と持てはやされて、そこに乗ってしまったのかなと。自分自身でちゃんとしたオン・オフを作ることが出来ずに、とにかく与えられたものだけをこなしてきた。そういう自分がよくなかったし、メリハリが大事なんだと痛感させられた。その事実を改めて再認識できたのは大きかったですね。

――1人の人間として空手と向き合えたということなんでしょうね。

 そうかもしれません。だから納得いくまで空手を続けたいと今は思っています。ここまで続けてるってことは、やっぱり空手が好きなんだなと。

 私はもともと試合が嫌いで、怖さや不安を感じて「やりたくない」と思ってしまいがちなんです。それは「勝ちたい」「負けたくない」という気持ちがあるから。そういった不安が完全になくなって「心底、楽しい」と思えたら、それがやめる時なんでしょう。空手を心から楽しいと思えたら、スッキリと引退を決断できる気がします。

 今はまだまだ空手をやりたくなるんで、先は長そうですね(笑)。空手は2024年パリ五輪の正式種目から外れてしまったんですけど、今年世界選手権もありますし、まずはそこに向かっていきます。
 
――最後にジュニアアスリートへのメッセージをお願いします。

 今、取り組んでいる競技だけが人生の全てではないので、もっと視野を広げて、いろんな情報を得た方がいいですね。

 その中で、自分が信じるものを大切にしてほしい。私の場合は今まで関わってくれたコーチやトレーナーさんをすごく信じられたので、今の自分のポジションにいられると思うんです。ジュニアアスリートのみなさんも自分に関わってくれている先生や指導者を信じて努力をしたら、自ずと成績が出てくるのではないのかなと感じます。


植草歩(うえくさあゆみ)
1992年7月25日生まれ/168cm
千葉県出身
日体大柏高校ー帝京大学ー高栄警備保障ーホリプロ社員ーフリー

9歳から空手を始め、高校3年の時に高校総体女子個人組手で3位となり、スポーツ特待生として帝京大学へ。1年から日本代表に選ばれ、2012年東アジア選手権で優勝、2013年のワールドゲームズ優勝、2014年世界学生大会優勝と大きく飛躍。卒業後の2015年には全日本空手選手権の個人組手で優勝し、18年まで4連覇を達成する。

その後、空手が正式種目に採用されたことで東京五輪を本格的に目指す。強さと美しさから「空手界のきゃりーぱみゅぱみゅ」とも言われるようになり、注目度も飛躍的に上がったが、金メダルを狙っていた2021年夏の東京五輪では、女子61kg超級で1次リーグA組4位となり予選敗退。本人は半年間の休養を経て、現役続行を決意。現在は「楽しい空手」をモットーに、2023年世界選手権に向けてレベルアップに勤しんでいる。
 

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