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「1ミリでも前進すること」――今永昇太と鈴木誠也が一つ一つ積み重ねる「伝統球団カブスの主力であることの証」<SLUGGER>

ナガオ勝司

2025.08.09

故障や不振も経験しながら、鈴木と今永はプレーオフを争う強豪カブスの主力として奮闘を続ける。(写真)GETTY IMAGES

 前半戦が終わった時点で、57勝39敗(勝率.594)でナショナル・リーグ中地区首位に立っていたカブスは、後半戦最初の18試合で9勝9敗と失速し、同時期に14勝4敗と快進撃を続けたブルワーズに首位の座を譲った。

 今永昇太がレッズ戦に先発したのは、8月5日。首位ブルワーズに3ゲーム差をつけられて、2位に甘んじていた日のことだ。

「長いシーズンなのでこうやって、時にはゲーム差がついてしまう時があるんですけど」と彼は少し、考えてから、そう言った。彼は7回途中3安打1失点と好投したが、チームは1対5でレッズに連敗。今季最大の4ゲーム差をつけられた。

「結果的に最後どうなってるかが重要。何か特別なことをしようとしても、急にゲーム差が縮まるわけじゃないので、一試合、一試合、丁寧に闘っていくことが大事だと思います」

 7月31日のトレード期限に、カブスはマイケル・ソロカ(先発投手)、アンドリュー・キットリッジ(救援右腕)、タイラー・ロジャース(救援左腕)、ウィリー・カストロ(ユーティリティ)の4人を補強した。メディアやファンの反応はさまざまで、「エース級や屈指の救援投手もいなければ、打線のテコ入れもできていない」と否定的な反応をする人々もいれば、「たった半年のレンタル移籍のために有力な有望株を手放さなかったのは正解」と肯定的に捉える人々もいた。

 ところが8月4日に、カブスで初先発したソロカが、2回で右肩を傷めて負傷者リスト入りするなどして試合に敗れ、5日の試合では、今永降板後にマウンドに上がったキットリッジが、3点本塁打を含む4失点で敗戦投手になり、「消極的な補強の末路がこれ」などとSNSが炎上した。

 もっとも、そういったグランド外の出来事に関して、選手にできることはそう多くない。今永はカブスの補強について問われ、こう答えている。
「僕は選手なので、正直、フロントオフィスの難しい仕事ってのは分からない。ただ一つやるべきことは、自分が任された試合に全力で取り組むだけなので」

 やるべきこと。たとえば、球速が低下したと言われる、真っすぐ=4シーム・ファストボール。昨季は平均時速91.7マイル(≒147.6キロ)。今季は90.8マイル(≒146.1)と、MLB公式サイトでも紹介されている。これについて今永は以前から「頑張って投げても球速出ないし、もういいやって感じ」と少し投げ遣りにも聞こえるコメントを残している。

 それでも彼は、普段のキャッチボールやブルペンで投球練習している最中、軸足側の股関節や膝の角度を気にしたり、並進運動のロスをなくすため、踏み出した足の位置を再確認したり。Velocity=球速そのものではなく、「対戦相手にはどう見えているのか?」にフォーカスしているようだ。

「自分の中で一番いい球速帯は146キロぐらいなんですね。それって90マイルちょっとじゃないですか。そこの146キロぐらいをいかに、100%じゃなく、腕が50%で、ストップ動作で50%出せるかってところ。自分の強みはそこだと思っているので、高めの真っすぐが良いとかそういうのじゃなくて、来そうで来ないみたいな感じのが一番いいと思っている」

 当たり前の話だが、メジャーリーグのピッチャーは「どんなに速く投げられるのかコンテスト」をしているわけではない。時速100マイルを投げても打者に簡単に打たれれば生き残れないし、時速80マイル台でも打者から連続してアウトを取ることができれば生き残れる。だからこそ、彼らは「Thrower」ではなく「Pitcher」と呼ばれているのだ。

「今日は投げたコースとか、ボール単体は良かったわけじゃないけど、投げるタイミングが良かったなと思います。メカニズムの中で、やっと自分の中で噛み合ってほしい部分がこんな風に使えばいいんだなというのが見つかりつつあったので、これを継続していくことが大事」
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