少し話が脱線するが、鈴木がレッズ戦で27号本塁打を放つ3日前のオリオールズ戦で2安打1打点を記録した試合後、最初の安打がメジャー通算500安打だったことを同業他社の記者から質問されて、彼はポツリとこう答えている。
「しんどいっすね」
とても重たい、と思った。日本人右打者の歴代最多のシーズン本塁打と打点記録を更新し続けているのに、彼の中には「満足」や、「達成感」といったものが皆無なのだ。
「たかが500本ごときなんで。4年で500安打なんて......イチローさんは5年でいくつでした? 1000安打以上?(実際は1130安打)......上には上がたくさんいるんで、なんとも思わないです」
今年の彼が「ホームランバッター」のような成績を収めていることで、実は地元メディアやファンは去年よりも静観している。だが、「打率よりも長打率」「シングル・ヒット4本よりホームラン1本」というような野球観は、一つ一つ積み重ねていくことを大事にしている彼の中にはないし、「4年で500安打」にようやく辿り着いたことへの複雑な感情が垣間、見えたような気がした。
レッズ戦の試合後に、話を戻そう。
「もちろん、どっかで突破口を開こうと思って打席に入っているけど、上手くいかない時は上手くいかない。自分がどうなってるのかを考えながら、いろいろやってますけど、ハマったりハマらなかったりがずっと続いていた。僕は常に打席の中でのバランスっていうのを見ているんですけど、そこがずっと崩れていた」
もちろん、不振の理由は彼自身の問題だけではない。相手も必死だ。5月までの活躍を踏まえて、鈴木がどこのコース、どこの高さ、どんなカウントでバットを振ってくるのかを徹底的に研究してきた。「2シームや4シームといった速球系に強い?」。「ならばカットやスライダー、いや、チェンジアップだって初球からでも使えばいいじゃないか」。「多少のボールゾーンでも振ってくるなら、それを逆手に取れば打ち取れるのでは?」と、多少、配球のセオリーを無視してでも、投げてきたのがこの2ヵ月間だった。
「もちろん相手も、いいボールがあって、なかなか上手くいかないことが多かったけど、今日は積極的に振りに行って甘い球を仕留められたのが良かったかなと思う。まあ、しっかりしたスウィングが打席でできていれば、もちろんああいう(強いライナーの)打球が出ると思うんで、しっかり打てるっていう状況に持っていけるかどうかが勝負。そこさえ決まれば、ある程度良い打席は迎えられる」
誤解を恐れずに言うと、レッズ戦の活躍も「たかが1試合」、「たかが1本」だ。それを言葉遊びみたいに「されど1試合」、「されど1本」と呼べるのは、彼が完全に復調した時のみ、だろう。
前出の今永にしてもそれは同じ。「一進一退」ではなく、「1ミリでもいいから前進すること」のみ。その積み重ねの結果が、今永にとっての勝ち星や防御率であり、鈴木にとっての本塁打や打点の数であり、彼らが伝統球団カブスの「主力」であることの「証」なのである――。
文●ナガオ勝司
【著者プロフィール】
シカゴ郊外在住のフリーランスライター。'97年に渡米し、アイオワ州のマイナーリーグ球団で取材活動を始め、ロードアイランド州に転居した'01年からはメジャーリーグが主な取材現場になるも、リトルリーグや女子サッカー、F1GPやフェンシングなど多岐に渡る。'08年より全米野球記者協会会員となり、現在は米野球殿堂の投票資格を有する。日米で職歴多数。私見ツイッター@KATNGO
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「しんどいっすね」
とても重たい、と思った。日本人右打者の歴代最多のシーズン本塁打と打点記録を更新し続けているのに、彼の中には「満足」や、「達成感」といったものが皆無なのだ。
「たかが500本ごときなんで。4年で500安打なんて......イチローさんは5年でいくつでした? 1000安打以上?(実際は1130安打)......上には上がたくさんいるんで、なんとも思わないです」
今年の彼が「ホームランバッター」のような成績を収めていることで、実は地元メディアやファンは去年よりも静観している。だが、「打率よりも長打率」「シングル・ヒット4本よりホームラン1本」というような野球観は、一つ一つ積み重ねていくことを大事にしている彼の中にはないし、「4年で500安打」にようやく辿り着いたことへの複雑な感情が垣間、見えたような気がした。
レッズ戦の試合後に、話を戻そう。
「もちろん、どっかで突破口を開こうと思って打席に入っているけど、上手くいかない時は上手くいかない。自分がどうなってるのかを考えながら、いろいろやってますけど、ハマったりハマらなかったりがずっと続いていた。僕は常に打席の中でのバランスっていうのを見ているんですけど、そこがずっと崩れていた」
もちろん、不振の理由は彼自身の問題だけではない。相手も必死だ。5月までの活躍を踏まえて、鈴木がどこのコース、どこの高さ、どんなカウントでバットを振ってくるのかを徹底的に研究してきた。「2シームや4シームといった速球系に強い?」。「ならばカットやスライダー、いや、チェンジアップだって初球からでも使えばいいじゃないか」。「多少のボールゾーンでも振ってくるなら、それを逆手に取れば打ち取れるのでは?」と、多少、配球のセオリーを無視してでも、投げてきたのがこの2ヵ月間だった。
「もちろん相手も、いいボールがあって、なかなか上手くいかないことが多かったけど、今日は積極的に振りに行って甘い球を仕留められたのが良かったかなと思う。まあ、しっかりしたスウィングが打席でできていれば、もちろんああいう(強いライナーの)打球が出ると思うんで、しっかり打てるっていう状況に持っていけるかどうかが勝負。そこさえ決まれば、ある程度良い打席は迎えられる」
誤解を恐れずに言うと、レッズ戦の活躍も「たかが1試合」、「たかが1本」だ。それを言葉遊びみたいに「されど1試合」、「されど1本」と呼べるのは、彼が完全に復調した時のみ、だろう。
前出の今永にしてもそれは同じ。「一進一退」ではなく、「1ミリでもいいから前進すること」のみ。その積み重ねの結果が、今永にとっての勝ち星や防御率であり、鈴木にとっての本塁打や打点の数であり、彼らが伝統球団カブスの「主力」であることの「証」なのである――。
文●ナガオ勝司
【著者プロフィール】
シカゴ郊外在住のフリーランスライター。'97年に渡米し、
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