高校野球

選手への信頼か、勝負に徹する采配か。山梨学院vs聖光学院の勝負を分けた両軍の指揮官の決断<SLUGGER>

氏原英明

2025.08.12

聖光学院の斎藤監督(左)と山梨学院の吉田監督(右)。選手を信頼すべきか、それとも勝負に徹するか、高校野球の指導者に誰しも存在するジレンマの中で、2人の決断の差が勝負を分けた。写真:THE DIGEST写真部

 厚い信頼か、勝つための采配か。

 8月12日に行われた第107回全国高等学校野球選手権大会8日目第1試合、山梨学院と聖光学院による甲子園常連校同士の対決は、指揮官の信念が試合を分けた。

 相手を見て勝つための采配を奮ったのは山梨学院・吉田洸二監督の方だった。

 先発には県大会でエース級の活躍を見せた檜垣瑠耀斗ではなく、エースナンバーの菰田陽生を立てた。その理由が明確だった。

「聖光学院さんは相手を分析することに長けているチーム。何年も続けて甲子園に出られているので。大会が始まってからも日程がありましたので、檜垣は分析されているだろうと。菰田で行って相手打線の持ち味を消していこうと考えました」

 これが功を奏する。聖光学院は菰田の先発をまったく考えておらず、左投手対策でこの日の試合に臨んでいた。

「全くの想定外。菰田くんのストレートは角度と球筋と重さが独特だった」

 試合前に6~7点のゲームと踏んでいた聖光学院・斎藤智也監督の目論見は崩れた。聖光学院は6回まではノーヒット、ロースコアの展開となった。

 もっとも、聖光学院のエース・大嶋哲平も山梨学院打線を上手く封じていた。連打を許さず、ピンチになっても粘りのあるピッチングは、さすが聖光学院のエースナンバーを背負う投手だ。1点を争うゲーム展開は、接戦を勝ち上がってきた聖光学院からしてみれば悪いものではなかった。斎藤監督もこう話している。
 

「見た目は山梨学院に圧倒されそうでしたけど。でも、うちはどこまで食らいついていくかという試合だった。大嶋みたいなピッチャーでも、タイミングを変える、奥行きを変えることによって、バッターのタイミングを狂わせることはできていた」

 試合は6回裏に動く。山梨学院は1死から四球、続いて三塁手のフィルダースチョイスで1死一、二塁の好機を作ると、8番・田村颯丈郎がレフト前へのタイムリーで1点を先制した。

 しかし、直後の7回表に聖光学院も即座に反撃。先頭の4番・竹内啓汰がチーム初安打をライト前に落とすと、ワイルドピッチ→セカンドゴロで1死三塁。6番・鈴木来夢のレフト前ヒットで同点に追いついた。ここで山梨学院は菰田から檜垣にスウィッチした。

 0対0の均衡は破られると試合が動く。格言のように言われるが、まさにそんな試合展開だった。7回裏には山梨学院が1死一、三塁のチャンスからサードゴロでチャンスを潰したかに見えたが、6番・萬場翔太が左翼に弾き返して1点を勝ち越した。

 山梨学院のマウンドには檜垣がいたから、聖光学院にしてみれば勝負をかけるべき時だったはずだ。しかし8回表、下位打線から始まる攻撃では投手・大嶋に回る打順でも代打の手を使わず、得点を挙げることができなかった。

 逆に8回裏、山梨学院は突き放しにかかる。球数100を超えて疲れの見える大嶋に対して、5本の長短打を集めて4得点。一気に試合の趨勢を手繰り寄せたのだった。

 9回表、聖光学院は1点を返すも、反撃はそこまでだった。9回の攻撃を見る限り、檜垣への対策はしっかりできていたようには思うが、攻撃の時間が少なかった。

 そう考えると、早めの一手が必要だっとも言える。8回表の攻撃から先手を打つことはできなかったのか。試合後の齋藤監督にそう尋ねると、もっとも指揮官らしい選手への信頼の言葉が返ってきた。

「檜垣くん対策をしっかりやってきたという自負がありましたから、下位打線でも大嶋を代えるつもりはなかったし、捕まえられるだろうという練習はしていました」
 
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両指揮官ともに選手への愛情にはあふれているが……