オリックス・バファローズの2025年シーズンはクライマックスシリーズでの敗退をもって幕を閉じた。チームとしては悔しさの残る結末となったが、10月のシーズン最終盤、来季に向けて光を放った右腕がいる。2年目右腕・権田琉成だ。オリックスはここ数年、毎シーズンのように新たな中継ぎ投手が台頭してきた。だがその裏では、前年に活躍した投手が怪我や離脱に見舞われる――そんな循環が続いている。だからこそ、終盤に初勝利を挙げた権田の存在は、26年シーズンに向けても大きな意味を持つ。
10月1日、京セラドーム大阪で行われた西武戦。この日はシーズンを通して先発ローテーションを守ってきたエスピノーザが2回に左脇腹を負傷して緊急降板。思わぬアクシデントでマウンドを託されたのが権田だったが、突然の出番にもかかわらず2イニングをパーフェクトに抑えた。
「もう僕が行くかなと思っていて。緊張とかはなく、一人一人打ち取るっていう風にブルペンでキャッチボールしてる時から決めてたんで、その通りになったのかなと」。突然の登板にも動じず、冷静に自分の投球を貫いた。
「そんなめっちゃ万全ではなかったですけど、先発ピッチャーが(緊急降板で)ああいう風になった後に、ゼロで抑えるってのは、やっぱリリーフの一つの仕事なので。そういう仕事は果たせたのかなと思います」。緊急でのスクランブル登板や先発・回またぎができるのも権田の強みだ。
初めてのヒーローインタビューでは「率直にすごく嬉しいです」と笑顔を見せ、「そんな豪速球とかはないのですが、打ち取れるピッチングができたのかな? と思います」と淡々と振り返った。将来像を問われると「とてつもないピッチャーになります」と力強く言い切り、記念すべき初勝利のボールについては「両親に渡します」と笑顔で語った。
思えば、昨年の10月1日はルーキーイヤーで初めて一軍登録された日だった。だが、登板機会が訪れることなくシーズンを終えている。1年後の同じ日付、今度は自らの右腕で結果を残し、プロ人生の新たな1ページを刻んだ。
プロ初登板は4月23日のソフトバンク戦。この日を含めて9登板を重ねた。8月からの2ヵ月はファームでの調整期間となり、投球の基礎を見つめ直した時間でもあった。 「新しいことに取り組んで、それを試合で出せる日、出せない日があったんですけど。そこで平井(正史)コーチ、牧野(塁)コーチの2人と(スタッフ)みんなで話して、いい方にちょっとずつ向かう期間だったので。僕にとってもすごく充実した期間です」
炎天下のファームで焦らず自分を磨いた。「球種だったり、コースにどういう風に(ボールが)入っていくとか、この2ヵ月課題としてやってきました」と、課題克服への努力を惜しまなかった。
23年ドラフトで社会人のTDKから7巡目指名を受けた権田。明星大時代にはドラフト指名漏れの悔しさを経験した。入団時には同期の髙島泰都、古田島成龍とともに社会人出身の"TKG"トリオとして注目され、「社会人で(背番号も96、97、98と)連番なんで、何かすごく気に入りました」と語っていた。
ただ、仲間2人はひと足早く昨年から一軍戦力として躍動。権田は昨季登板なしと悔しい思いをした。「僕も早くあの2人に追いつき追い越しっていう存在になりたいんで。アイツらも勝ってますし、僕も今日勝ったので、とりあえずは嬉しいですね。3人とも勝ったっていうのは」。今季終盤での初勝利でついに同期と肩を並べた。
この日はベンチ外だった髙島は「初勝利おめでとう!一軍にTKG3人集まって活躍しよう!」とメッセージを送り、右肘手術で戦線を離れていた古田島も「去年は一軍登板なく悔しいシーズンだったり、今年登録されても投げずに抹消になったりというのも見ていたので、自分のことのように嬉しく思います。本当におめでとうと伝えたいです! でもまだまだ権田ならできると思うので僕の分も頑張ってもらいたいです」とエールを寄せた。
その1勝は、チームの来季を照らす小さな光でもあり、権田自身にとっても次のステップへの通過点だ。オフの努力が、来シーズンの飛躍へとつながる。"TKGトリオ"の3人が揃って一軍のマウンドに立つ日。その光景は、来季のオリックスにとって大きな希望になるはずだ。
文・写真●野口航志
【著者プロフィール】
ノグチコウジ。 1984年、神戸市生まれ。岡山大学卒業。記者とカメラマンの『二刀流』。プロ野球を中心に、社会人野球やプロレス・ボクシングなどの取材や撮影に携わる。ブレーブス時代からのオリックスファン。
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