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【2020MLB注目のスターたち】マックス・シャーザー&ジェイコブ・デグロム――誇り高き絶滅危惧種の本格派エースたち

久保田市郎(SLUGGER編集長)

2020.07.21

“古き良きエース”を思い起こさせるシャーザー(左)とデグロム(右)は、ともにナ・リーグ東地区の球団のエースとしてしのぎを削る。写真:Getty Images

 エースとエースが投げ合う試合には、独特の魅力がある。

 イニングを追うごとに張り詰めた緊張感が高まり、一球一球がゲームの帰趨を左右する重要性を帯びていく。次第に見る者も、咳一つすることさえはばかられるような感覚に見舞われる。

 豪快なホームランや守備での鮮やかな好プレーが「動」の面白さだとすれば、息詰まる投手戦は言わば「静」の魅力と表現できるかもしれない。ただ、「静」とはいっても、マウンドからはすさまじいばかりの熱量、感情がマグマのようにあふれ出ている。2人のエースが自らの技量、意地とプライドを懸けて投げ合う静かで熱い戦いに、見る者は心を奪われるのだ。

 投手分業制の細分化が進み、本塁打攻勢のオフェンスが重視される現代のメジャーリーグにあって、先発投手の存在感は薄くなってしまっているが、今も昔ながらのエース同士の投げ合いを見せてくれるのが、マックス・シャーザー(ナショナルズ)とジェイコブ・デグロム(メッツ)だ。

 チームの期待を一身に背負って孤独なマウンドで戦うエースには、西部劇のガンマン、あるいはアクションヒーローの姿が重なる。
 
 最多勝4回にサイ・ヤング賞3回、ノーヒッターや1試合20奪三振など輝かしい実績を誇るシャーザーは、ファーストネームにちなんで〝マッドマックス〞の異名を取る。直接の由来はもちろん、SFアクション映画の金字塔だ。確かに、オッドアイをらんらんと輝かせたシャーザーが、餌に飢えた野獣のようにせわしなくマウンド付近を動き回る様子は、マッドでヤバい雰囲気に満ちあふれている。

 一方、デグロムにも人気映画にちなんだニックネームがある。〝デグロミネーター〞は、自身のラストネームと『ターミネーター』が融合したものだ。アーノルド・シュワルツェネッガー演じるT-800と同様、デグロムは極めて冷静に、それでいて圧倒的な支配力で打者を仕留めていく。

 4歳年上で、一足早く一流投手の仲間入りを果たしていたシャーザーに、ここ数年でデグロムが猛烈な勢いで追いつきつつある、というのが近年の構図だ。

 2人が初めて肩を並べる存在となったのは18年のことだった。この年、シャーザーはリーグ最多の220.2イニングを投げ抜き、最多勝(18)と最多奪三振(300)を獲得。3年連続のサイ・ヤング賞を手にしてもおかしくなかったが、そこにデグロムが立ちはだかった。

 援護に恵まれずにわずか10勝に終わったものの、防御率1.70はシャーザーの2.53を大幅に下回り、1969年以降では7位という歴史的な快投。サイ・ヤング賞投票では、1位票を29も獲得する圧倒的な支持を集めて初受賞を果たした。
 
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エース2人が開幕戦で激突!