近年のメジャーリーグは若返りが急速に進んでおり、30歳を過ぎた選手の立場は非常に厳しくなっている。2018年のMLBの全体の野手の平均年齢は28.1歳で、1979年以降では最も若い数字だった。セイバーメトリクスの研究などにより、多くの選手は27歳前後にピークを迎えることが広く知られていて、30代中盤ともなれば“オワコン”扱いを受けてしまう。
しかし、この球界の『常識』を覆すような活躍を見せているのが、先日16日に34歳を迎えたダルビッシュ有である。シカゴ・カブスのエース右腕は23日に行われたシカゴ・ホワイトソックス戦で7回1失点10奪三振の好投を見せると、今季5勝目をマーク。両リーグ最多タイ、ナ・リーグの最多勝レースのトップに躍り出たのだ。
もちろん、勝ち星が付くかどうかは運による側面も強いため、イコール投手の実力を証明しているわけではない。しかしダルビッシュの場合は、内容面も素晴らしい。防御率1.70はメジャー5位、与四球率1.46も5位、K/BB(奪三振と与四球の比)7.33も3位に位置し、ここ5登板はすべてQS(6イニング以上を投げて自責点3以下)クリアと安定感も抜群なのである。
今季の充実感は23日の試合後のコメントからもうかがい知れる。「去年よりも良いですね。去年の後半より全体的に球速が上がっているし、いろんな球をさらにもっと操れるようになっている」と語り、また「年を取ると、たいていの選手は球速や球威が落ちてしまう。でも自分は、25歳、26歳の時よりも良くなっていると思う」と口にしていた。それは決して彼の“肌感”ではなく、実際に“数字”も裏付けしている。
ダルビッシュの今季の4シームの平均球速は95.8マイル(約154.2キロ)。これはテキサス・レンジャーズ時代の2016年(94.4マイル/151.9キロ)を上回り、キャリアハイを大きく更新している。しかも、ただ速いだけではないのが凄いところだ。空振り/スウィング率は昨年の29.3%が自己最高だったのが、こちらも今季は大きく上回る43.2%まで上昇。端的に言えば、今年のダルビッシュのストレートは「速くて空振りが取れる」球種なのである。しかも被打率は.158、一本の長打も打たれていないのだから、相手打者は本当にお手上げ状態と言えるだろう。
さらに細かくデータを見ていくと、その進化がより見えてくる。4シームはこれまで同様にメジャー屈指の回転数の高さは維持しながらも、今季はそこに“浮き上がる”成分も加わっているのだ。
すべてボールは重力の影響を受けるため、ストレートを含めて「落下しない」球種は存在しない。しかし、回転軸や効率を高めることで落ち幅を最小限にとどめ、打者に“浮き上がって”くるように感じさせることができる。ダルビッシュは昨年もMLB平均より1インチ(約2.5cm)“浮く”4シームを投じていたが、今季は何と2.5インチ(約6.4cm)までホップしている。オフシーズンに改善を試みた4シームは、目論見通りに“魔改造”されているのだ。
そして23日の試合で奪った10三振のうち、7つは代名詞のスライダーで記録されたものだったが、専属捕手のビクター・カラティニは試合後、「いつもと違った」と口にした。この日はスライダーだけで13個の空振りを記録しており、2013年4月24日のロサンゼルス・エンジェルス戦に並ぶ自己最多だった。しかし、13年のダルビッシュは投球の4割近く(36.7%)をスライダーが占めていたが、今季は13.1%と使用頻度が激減している。その中で同数を奪ったわけだから、スライダーの切れ味も鋭くなっているのかもしれない。
多彩な球種を持ちながらも、かつてはコントロールに弱点を抱えて、その効力を最大限に生かすことはできなかった。しかし昨季後半からは制球難を克服し、最新データ機器『スタットキャスト』が識別できなくなるほど、同じ球種でも変化量、スピード、回転数を自在に操って好成績を収め続けている。
ダルビッシュは年齢を重ねて衰えるどころか、むしろ“完全体”へ近づきつつある。いやもしかしたら、その進化は今後もまだまだ続いていくのかもしれない。その歩みを進めていけば、必ずやサイ・ヤング賞を獲得できる未来が待っているはずだ。
構成●SLUGGER編集部
しかし、この球界の『常識』を覆すような活躍を見せているのが、先日16日に34歳を迎えたダルビッシュ有である。シカゴ・カブスのエース右腕は23日に行われたシカゴ・ホワイトソックス戦で7回1失点10奪三振の好投を見せると、今季5勝目をマーク。両リーグ最多タイ、ナ・リーグの最多勝レースのトップに躍り出たのだ。
もちろん、勝ち星が付くかどうかは運による側面も強いため、イコール投手の実力を証明しているわけではない。しかしダルビッシュの場合は、内容面も素晴らしい。防御率1.70はメジャー5位、与四球率1.46も5位、K/BB(奪三振と与四球の比)7.33も3位に位置し、ここ5登板はすべてQS(6イニング以上を投げて自責点3以下)クリアと安定感も抜群なのである。
今季の充実感は23日の試合後のコメントからもうかがい知れる。「去年よりも良いですね。去年の後半より全体的に球速が上がっているし、いろんな球をさらにもっと操れるようになっている」と語り、また「年を取ると、たいていの選手は球速や球威が落ちてしまう。でも自分は、25歳、26歳の時よりも良くなっていると思う」と口にしていた。それは決して彼の“肌感”ではなく、実際に“数字”も裏付けしている。
ダルビッシュの今季の4シームの平均球速は95.8マイル(約154.2キロ)。これはテキサス・レンジャーズ時代の2016年(94.4マイル/151.9キロ)を上回り、キャリアハイを大きく更新している。しかも、ただ速いだけではないのが凄いところだ。空振り/スウィング率は昨年の29.3%が自己最高だったのが、こちらも今季は大きく上回る43.2%まで上昇。端的に言えば、今年のダルビッシュのストレートは「速くて空振りが取れる」球種なのである。しかも被打率は.158、一本の長打も打たれていないのだから、相手打者は本当にお手上げ状態と言えるだろう。
さらに細かくデータを見ていくと、その進化がより見えてくる。4シームはこれまで同様にメジャー屈指の回転数の高さは維持しながらも、今季はそこに“浮き上がる”成分も加わっているのだ。
すべてボールは重力の影響を受けるため、ストレートを含めて「落下しない」球種は存在しない。しかし、回転軸や効率を高めることで落ち幅を最小限にとどめ、打者に“浮き上がって”くるように感じさせることができる。ダルビッシュは昨年もMLB平均より1インチ(約2.5cm)“浮く”4シームを投じていたが、今季は何と2.5インチ(約6.4cm)までホップしている。オフシーズンに改善を試みた4シームは、目論見通りに“魔改造”されているのだ。
そして23日の試合で奪った10三振のうち、7つは代名詞のスライダーで記録されたものだったが、専属捕手のビクター・カラティニは試合後、「いつもと違った」と口にした。この日はスライダーだけで13個の空振りを記録しており、2013年4月24日のロサンゼルス・エンジェルス戦に並ぶ自己最多だった。しかし、13年のダルビッシュは投球の4割近く(36.7%)をスライダーが占めていたが、今季は13.1%と使用頻度が激減している。その中で同数を奪ったわけだから、スライダーの切れ味も鋭くなっているのかもしれない。
多彩な球種を持ちながらも、かつてはコントロールに弱点を抱えて、その効力を最大限に生かすことはできなかった。しかし昨季後半からは制球難を克服し、最新データ機器『スタットキャスト』が識別できなくなるほど、同じ球種でも変化量、スピード、回転数を自在に操って好成績を収め続けている。
ダルビッシュは年齢を重ねて衰えるどころか、むしろ“完全体”へ近づきつつある。いやもしかしたら、その進化は今後もまだまだ続いていくのかもしれない。その歩みを進めていけば、必ずやサイ・ヤング賞を獲得できる未来が待っているはずだ。
構成●SLUGGER編集部