ダルビッシュ有がサイ・ヤング賞の本命であることに、誰も異論はないだろう。
シカゴ・カブスの右腕ダルビッシュは現地時間4日、本拠地で行われたセントルイス・カーディナルス戦に先発すると、5回終了まで完全試合の圧巻のピッチングを披露。6回先頭にこの日唯一となるヒットを本塁打で浴びたものの、7回を投げて1安打1失点、無四球11奪三振の成績を残し、メジャー単独トップの7勝目をマークした。勝利数だけでなく、防御率1.44、63奪三振もリーグ1位に入り、メジャー史上38度目、28人目の投手三冠王の可能性も出てきている。
もし投手三冠となれば、サイ・ヤング賞はもちろんMVPを獲得しても不思議はなく、最後に投手三冠(24勝・防御率2.40・250奪三振)となった2011年のジャスティン・バーランダーは見事に同時受賞を果たした。もっとも、この時は「投手がMVPを獲得すべきか」という議論が起こったほどで、実際1980年以降に投手でMVPとなったのは、この年のバーランダーを含めてわずか6人しかいないレアケースである。
全米野球記者協会は投票の際の注意点として、以下の5つを挙げている。(1)チームに対する貢献度、つまり攻撃力と守備力 (2)出場試合数 (3)性格、気質、忠誠度と努力 (4)過去の受賞経験者も資格がある (5)同一チームの2人以上に投票可。MVP投票にあたっては、(1)と(2)が大きなポイントだ。
近年はこの貢献度を測る指標「WAR」が登場し、ここ数年のMVPにはリーグトップないし準ずるWARを記録した選手が選ばれることが多い。ただそれでも、2018年にジェイコブ・デグロムがリーグ1位のWARを記録しながら投票5位に終わるなど、投手への風向きは決して良いとは言えない。焦点となるのが(2)である。
通常のレギュラーシーズンであれば162試合、健康な野手であれば150試合、全体の9割以上に出場することはざらである。一方、先発投手は一度もローテーションに穴を空けなかったとしても最大35試合前後、チーム試合数の5分の1程度に過ぎない。ともすれば、救援投手は70試合以上を投げるわけで、過去には救援投手の方が先発よりもチームに貢献する機会が多いとの考えが主流だった。1980年からバーランダーが受賞するまでの2010年の間、MVPを受賞した投手4人のうち3人がリリーフというのも、そうした思考が影響していたと言われている。
確かに長丁場のレギュラーシーズンであれば、一年間ずっと戦っている野手の方に分があるというのは納得だろう。しかし今季は60試合の“短期決戦”。「フルシーズン」の価値がそれほど高いとは言えない。その点からすると、確固たる貢献度を残している選手であれば、それが試合数の少ない投手であろうとも、十分にMVP投票で議論されるべきだろう。
そこで改めて今季のダルビッシュの成績を見てみると、8先発して7勝1敗、防御率1.44、63奪三振、50.0投球回、奪三振率11.34、K/BB7.88、fWAR2.1、bWAR2.4。前述の通り、勝利・防御率・奪三振はリーグ1位、そして勝利貢献度を示すWARもFanGraphs版では「投手」リーグトップに立っている。
あえて投手を強調したのは、FanGraphs版のWARでも野手でダルビッシュより上がいるからで、Baseball-Reference版だと投手の中でも僅差の3位、野手を含めるとリーグ5位となっている。ダルビッシュが今季の投手の中で5本の指に入っているのは疑いの余地はないものの、(1)の貢献度で上の存在がいるとなると、MVPの可能性は難しいと言わざるを得ない。
ナ・リーグのMVPレースは21歳の大型遊撃手にして本塁打王のフェルナンド・タティースJr.(サンディエゴ・パドレス)、bWARでメジャー1位のムーキー・ベッツ(ロサンゼルス・ドジャース)が双璧というのが大半であり、ダルビッシュのMVPレースにおける立ち位置は「第2グループ」というのが冷静な評価だろうか。とはいえ、これに関しては相手が悪かったとも言えるわけで、仮にダルビッシュが今後もさらなる好投を続けていけば、WARトップに立ち、データ面でも互角に渡り合える可能性は十分考えられる。
そして最後に伝えたいことがある。地区首位を快走するカブスだが、実はダルビッシュを除いた先発投手陣の成績は11勝10敗、防御率4.74という平凡な数字が並んでいる。もしダルビッシュがいなかったら、カブスが独走態勢を築けることはなかったはずだ。
「MVP」=「Most Valuable Player」。“Valuable(価値のある)”の定義は曖昧なものではある。けれどもカブスにとって、ダルビッシュ以上に“Valuable”な選手は存在しない。少なくともこれだけは、断言できる。最終的にMVP、サイ・ヤング賞を受賞するかどうかは分からないものの、終盤に来てこうした論争が生まれること自体が、ダルビッシュの投球が素晴らしいことの証明と言えるのではないか。
文●新井裕貴(SLUGGER編集部)
【PHOTO】“20年サイ・ヤング賞候補”ダルビッシュ有。投球からイケメンぶり、マエケンらとの絡みも!
シカゴ・カブスの右腕ダルビッシュは現地時間4日、本拠地で行われたセントルイス・カーディナルス戦に先発すると、5回終了まで完全試合の圧巻のピッチングを披露。6回先頭にこの日唯一となるヒットを本塁打で浴びたものの、7回を投げて1安打1失点、無四球11奪三振の成績を残し、メジャー単独トップの7勝目をマークした。勝利数だけでなく、防御率1.44、63奪三振もリーグ1位に入り、メジャー史上38度目、28人目の投手三冠王の可能性も出てきている。
もし投手三冠となれば、サイ・ヤング賞はもちろんMVPを獲得しても不思議はなく、最後に投手三冠(24勝・防御率2.40・250奪三振)となった2011年のジャスティン・バーランダーは見事に同時受賞を果たした。もっとも、この時は「投手がMVPを獲得すべきか」という議論が起こったほどで、実際1980年以降に投手でMVPとなったのは、この年のバーランダーを含めてわずか6人しかいないレアケースである。
全米野球記者協会は投票の際の注意点として、以下の5つを挙げている。(1)チームに対する貢献度、つまり攻撃力と守備力 (2)出場試合数 (3)性格、気質、忠誠度と努力 (4)過去の受賞経験者も資格がある (5)同一チームの2人以上に投票可。MVP投票にあたっては、(1)と(2)が大きなポイントだ。
近年はこの貢献度を測る指標「WAR」が登場し、ここ数年のMVPにはリーグトップないし準ずるWARを記録した選手が選ばれることが多い。ただそれでも、2018年にジェイコブ・デグロムがリーグ1位のWARを記録しながら投票5位に終わるなど、投手への風向きは決して良いとは言えない。焦点となるのが(2)である。
通常のレギュラーシーズンであれば162試合、健康な野手であれば150試合、全体の9割以上に出場することはざらである。一方、先発投手は一度もローテーションに穴を空けなかったとしても最大35試合前後、チーム試合数の5分の1程度に過ぎない。ともすれば、救援投手は70試合以上を投げるわけで、過去には救援投手の方が先発よりもチームに貢献する機会が多いとの考えが主流だった。1980年からバーランダーが受賞するまでの2010年の間、MVPを受賞した投手4人のうち3人がリリーフというのも、そうした思考が影響していたと言われている。
確かに長丁場のレギュラーシーズンであれば、一年間ずっと戦っている野手の方に分があるというのは納得だろう。しかし今季は60試合の“短期決戦”。「フルシーズン」の価値がそれほど高いとは言えない。その点からすると、確固たる貢献度を残している選手であれば、それが試合数の少ない投手であろうとも、十分にMVP投票で議論されるべきだろう。
そこで改めて今季のダルビッシュの成績を見てみると、8先発して7勝1敗、防御率1.44、63奪三振、50.0投球回、奪三振率11.34、K/BB7.88、fWAR2.1、bWAR2.4。前述の通り、勝利・防御率・奪三振はリーグ1位、そして勝利貢献度を示すWARもFanGraphs版では「投手」リーグトップに立っている。
あえて投手を強調したのは、FanGraphs版のWARでも野手でダルビッシュより上がいるからで、Baseball-Reference版だと投手の中でも僅差の3位、野手を含めるとリーグ5位となっている。ダルビッシュが今季の投手の中で5本の指に入っているのは疑いの余地はないものの、(1)の貢献度で上の存在がいるとなると、MVPの可能性は難しいと言わざるを得ない。
ナ・リーグのMVPレースは21歳の大型遊撃手にして本塁打王のフェルナンド・タティースJr.(サンディエゴ・パドレス)、bWARでメジャー1位のムーキー・ベッツ(ロサンゼルス・ドジャース)が双璧というのが大半であり、ダルビッシュのMVPレースにおける立ち位置は「第2グループ」というのが冷静な評価だろうか。とはいえ、これに関しては相手が悪かったとも言えるわけで、仮にダルビッシュが今後もさらなる好投を続けていけば、WARトップに立ち、データ面でも互角に渡り合える可能性は十分考えられる。
そして最後に伝えたいことがある。地区首位を快走するカブスだが、実はダルビッシュを除いた先発投手陣の成績は11勝10敗、防御率4.74という平凡な数字が並んでいる。もしダルビッシュがいなかったら、カブスが独走態勢を築けることはなかったはずだ。
「MVP」=「Most Valuable Player」。“Valuable(価値のある)”の定義は曖昧なものではある。けれどもカブスにとって、ダルビッシュ以上に“Valuable”な選手は存在しない。少なくともこれだけは、断言できる。最終的にMVP、サイ・ヤング賞を受賞するかどうかは分からないものの、終盤に来てこうした論争が生まれること自体が、ダルビッシュの投球が素晴らしいことの証明と言えるのではないか。
文●新井裕貴(SLUGGER編集部)
【PHOTO】“20年サイ・ヤング賞候補”ダルビッシュ有。投球からイケメンぶり、マエケンらとの絡みも!