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通算208勝右腕はなぜ「サイン暴露」を行ったのか。アストロズ不正行為の正当化? それとも…

節丸裕一

2020.10.12

グレインキーが大舞台でも披露した「サイン暴露」が話題に。その行為の真意とは?(C)Getty Images

グレインキーが大舞台でも披露した「サイン暴露」が話題に。その行為の真意とは?(C)Getty Images

 コロナ禍がなければ、今年は“別の問題”で混乱しているはずだった。実際、新型コロナウイルスが感染拡大するまでのスプリング・トレーニング序盤は、この一件が話題の中心だった。

「ヒューストン・アストロズのサイン盗み問題」

 あれだけ世間を騒がせて、純粋なファンを落胆させたにしては、その処罰はケジメをつけるには不十分だったと思うし、怒りを露わにする他球団の選手に対してさえも、不誠実に対処した選手が散見されたのは残念でしかなかった。

 その代表格がザック・グレインキー。今季まで通算208勝を挙げ、2009年にはサイ・ヤング賞を受賞した球史に残るベテラン投手だ。レギュラーシーズン中の8月、グレインキーが投球モーションに入る直前に指で相手打者に球種を伝え、それでも打ち取るというシーンが話題になった。これ以外にも、球種を口に出しながら抑えたこともあった。そしてこの行為は、オークランド・アスレティックスとの地区シリーズという大事な舞台でも行われた。

 アストロズが2勝1敗で王手をかけた第4戦、2回1死一、二塁で7番のラモン・ロウレアーノを迎えた場面。グレインキーはフルカウントからの6球目、投球モーションに入る直前に顔の近くで右手の指を2本立てた。一般的に指が1本なら速球、2本ならスライダーとされているので、これはスライダーのサイン。そして、“公言”通りに投げたスライダーは甘く入り、先制の3ランを浴びたのだ。
 
 SNS上には、「クレイジー」「ポストシーズンではやめてくれ」などと、ファンから批判的な声が上がったのは言うまでもない。もっとも、この一発は致命傷にはならず、打線が奮起したアストロズが逆転勝ちして、リーグ優勝決定シリーズへ進出を決めたが、後味の悪さが残る試合だった。

 僕は、投手が打者に球種を伝えるのはおかしいと思っている。ときどきオールスターで「全球まっすぐ」と宣言する投手もいるが、そんなこと言わずに黙って全球ストレートで勝負した方が痺れるのにな、と思う。先に言ってしまうのは、タネ明かしをしてから手品を見せるようなものだ。真剣勝負ではない、お遊びです、という宣言に聞こえて、オールスターの価値を損ねていると思う。

 しかし、グレインキーがやったことは、違う意味で見過ごせない。一部の解説者が言うように、「これがサイン盗み問題に対するグレインキーのアンサー」なのだろう。だが、それだけで済ませられるだろうか。彼は軽い遊び心ではなく、真剣に勝負しながら、「球種が分かっていても、簡単には打てないだろう」と相手を侮辱し、挑発した。
 
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