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【追悼ホワイティ・フォード】「銀行頭取のよう」と言われたヤンキースの名左腕にも、実は裏の顔があった?

豊浦彰太郞

2020.10.15

フォードは頭脳的なピッチングで淡々と打者を打ち取るスタイルで知られたが、実は不正投球にも手を染めていたとか…。(C)Getty Images

 1950~60年代のヤンキースを、打のミッキー・マントルとともに牽引した投のヒーロー、ホワイティ・フォードが、10月8日に亡くなった。91歳だった。通算236勝は同球団の投手として史上最多。ビッグアップルの名門球団ひと筋の現役生活で、ワールドシリーズには11回出場(うちシリーズの開幕投手は10回を数える)して、6度の世界一に輝くなど、そのキャリアは常に陽の当たるところにあった。74年に野球殿堂入りするとともに、背番号16はヤンキースの投手として初の永久欠番に指定された。

 当時のヤンキースを、ピュリッツァー賞受賞のコラムニストであるジム・マレーは、ゼネラル・モータース(GM)になぞらえた。自動車離れが叫ばれる現代の日本の若者にはピンと来ないかもしれないが、52年にGM会長のチャールズ・ウィルソンが「GMにとって良いことは、アメリカにとって良いことだ」と自信満々に語ったほど、同社はアメリカの基幹産業の雄として、経済的繁栄を象徴する存在だった。そして、フォードは球界のGMたるヤンキースの"Chairman of the board(取締役会議長)"と呼ばれていた。
 
 これは、マウンド上での彼の姿にイメージを重ねたニックネームだ。キリっと口元を締め、無表情で淡々と、かつ完壁に自らの仕事を遂行する様子は、さながらエリートビジネスマン。ベースボールライターの最高の栄誉であるJG・テイラー・スピンク賞を受賞した名コラムニスト、ロジャー・エンジェルは、「五番街の銀行頭取のよう」とも評している。

 しかし、すべてのビジネスには表と裏が存在するように、フォードも正統派の名左腕というだけではなかった。彼はボールに傷を付ける不正投球、エメリー・ボールの使い手でもあったのだ。野球史家のロブ・ネイヤーとビル・ジェームズによる共著『ガイド・トゥ・ピッチャーズ』のフォードの球種レパートリーには、速球、カーブ、チェンジアップ、シンカー、スライダーに加えて「1960年代は数多くの不正投球」と記されている。