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今オフ、ヤンキース田中将大にも提示されるかもしれない「クオリファイング・オファー」って何?

宇根夏樹

2020.10.29

昨オフQOを受けた10人のうち、受諾したのはアブレイユ(右)とオドリッジ(左)の2人だ。(C)Getty Images

 今オフFAとなる選手に対して、所属球団が申し出ることができるクオリファイング・オファー(QO)の金額が、1年1890万ドルに決まった。QOはFAになった選手に在籍していた球団が申し出るもの。受け入れれば残留だが、拒否した選手が別の球団と契約した場合、元の球団は補償としてドラフト指名権を得る。金額は年俸上位125選手の平均だ。今年の場合、シーズン短縮に伴って減額された金額ではなく、契約にある元々の年俸を平均して基準としている。昨オフは1780万ドルだったので、110万ドルのアップ。そして過去最高の金額となる。

 FAとなる選手のうち、先発投手のトレバー・バウアー(レッズ)、捕手のJT・リアルミュート(フィリーズ)、外野手のジョージ・スプリンガー(アストロズ)に対しては、間違いなくQOの申し出があるだろう。遊撃手のマーカス・セミエン(アスレティックス)、二塁手のDJ・ラメイヒュー(ヤンキース)、先発投手のマーカス・ストローマン(メッツ)も、その可能性は高い。この他に、田中将大(ヤンキース)やリアム・ヘンドリクス(アスレティックス)にも申し出があってもおかしくない。

 そして、これらの選手のほとんどはQOを拒否するはずだ。2012年の制度発足以来、これまでにQOがなされた選手は90人に上るが、受け入れた選手は8人にとどまる。昨オフも、申し出を受けた10人中、受け入れたのはわずかに2人、ホゼ・アブレイユ(ホワイトソックス)とジェイク・オドリッジ(ツインズ)だけだった。
 
 2人のうち、アブレイユはQOを受諾後、3年5000万ドル(20~22年)の延長契約を結んだ。一方、オドリッジは今オフ再びFAとなるが、今度はQOの対象にはならない。現行のルールでは、QOを受けた選手は二度とその対象にならない、と定めているからだ。

 今オフのFAでは、外野手のマーセル・オズーナ(ブレーブス)、DHのネルソン・クルーズ(ツインズ)、三塁手のジャスティン・ターナー(ドジャース)らも、QOの対象外だ。例えば、スプリンガーとオズーナのどちらかを外野の一角に加えたいと考える球団にとって、QOを受けているか否かは判断材料の一つになる。QOを拒否したスプリンガーと契約すると、その補償として来年のドラフト指名権を一つ失うことになるためだ。

 なお、QOを拒否しても、再契約の道は残されている。実際に、昨オフにナショナルズからFAとなったスティーブン・ストラスバーグは、QOを拒否した後、ナショナルズと7年2億4500万ドル(20~26年)の契約を交わした。同様のケースは意外と多く、実に4割以上がQOを拒否した後に再契約を交わしており、このケースには他に12年オフの黒田博樹(当時ヤンキース)などがいる。

文●宇根夏樹

【著者プロフィール】
うね・なつき/1968年生まれ。三重県出身。『スラッガー』元編集長。現在はフリーライターとして『スラッガー』やYahoo! 個人ニュースなどに寄稿。著書に『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。