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MLB

“ノーノ―55試合”“HRが翌日落下”――二グロリーグの成績がメジャー記録に認定で、これらの神話は色褪せないか?

宇根夏樹

2020.12.23

ニグロリーグの2大レジェンド、ペイジ(左)とギブソン(右)。にわかには信じられないような伝説を持つ2人だが、それがニグロリーグの歴史を紐解く上での面白さでもあった。(C)Getty Images

ニグロリーグの2大レジェンド、ペイジ(左)とギブソン(右)。にわかには信じられないような伝説を持つ2人だが、それがニグロリーグの歴史を紐解く上での面白さでもあった。(C)Getty Images

 17日、MLBはニグロリーグの成績もメジャーリーグの記録として認定することを発表した。ニグロリーグとは、かつて黒人選手がメジャーリーグから排斥されていた1920年から48年にかけて、全米各地に点在していた有色人種中心のプロリーグの総称。今回、メジャーリーガーとして認定されるのは、7つのリーグでプレーした約3400人の選手たちだ。

 この決定によって、具体的に何が変わるのだろうか。たとえば、黒人初のメジャーリーガーとして知られるジャッキー・ロビンソンは、45年に1年だけニグロリーグのカンザスシティ・モナークスでプレーしていた。この時に放った38安打がメジャーリーグでの記録と認定され、それまでの通算1518安打から1556安打となる可能性が出てきたのだ。

 キャリアの大半、あるいはすべてをニグロリーグで過ごした選手の成績は、それらがすべて「メジャー通算成績」として扱われることになる。具体的には、ニグロリーグのレジェンドであるサチェル・ペイジやジョシュ・ギブソンがそうだ。

 ペイジの正確な生年月日は不明(MLB公式サイトでは、1906年7月7日となっている)ながら、48年にインディアンスで“メジャーデビュー”した時は、すでに40代だった。メジャーではわずか通算28勝だが、これにニグロリーグ時代の白星を加えると150勝を超えるという。
 
 一方、ニグロリーグ史上最高のホームランバッターで、「黒いベーブ・ルース」と呼ばれたギブソンは、メジャーリーグでのプレー経験はない。ニグロリーグでの通算本塁打数は、113本や238本といったものから、800~900本だとする説も存在する。

 これは、ニグロリーグの記録に不完全な部分が多い上、シーズン中にセミプロやノンプロの球団とも試合を行ってきたため、公式戦とみなすべきかどうか判然としない試合も少なくないからだ。今後、MLB機構は専門家の助けも借りながら、古い記録を紐解いてギブソンたちの「メジャー通算成績」を認定していくことになるだろう。

 ただ、ギブソンの800とも900とも言われるニグロリーグ通算本塁打数が、すでにそれだけで一つの‟伝説”と化しているのも事実だ。彼には「ピッツバーグの球場で放った本塁打が、翌日、フィラデルフィアの球場に落ちてきた」という‟神話”すらある。ギブソンがベーブ・ルースと比較される強打者だったことはすでに述べたが、ルースよりもギブソンの方がすごかったという畏敬を込めて、ルースのことを「白いジョシュ・ギブソン」と呼ぶべきだとの声もあった。

 ペイジについても、ニグロリーグでは2500試合以上に登板し、通算2000勝以上を挙げ、そのうちノーヒットノーランは55試合もあった……という‟神話”が存在する。170キロの剛速球を投げたと言われる殿堂入りの名投手ボブ・フェラーは、「ペイジの投げるボールに比べれば、私の速球なんてチェンジアップだよ」と語っていたほどだ。

 ニグロリーグが再評価されることに対して、異論はまったくない。ただ、ギブソンやペイジの伝説的な逸話は、これまでのニグロリーグの楽しみ方の一つだった。これをあえて記録や数値で示すことにより、彼らの“神話”が色褪せてしまうのは、何だか寂しい気もする。

文●宇根夏樹

【著者プロフィール】
うね・なつき/1968年生まれ。三重県出身。『スラッガー』元編集長。現在はフリーライターとして『スラッガー』やYahoo! 個人ニュースなどに寄稿。著書に『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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