プロ野球

DeNA乙坂智が放った劇的サヨナラ弾の舞台裏――ラミレス監督の頭をよぎった2年前の記憶と頑なにこだわった「ベイスターズの型」

氏原英明

2019.10.07

迷いなき指揮官の判断が、乙坂のホームランの呼び水になった。写真:朝日新聞社

 指揮官は最後まで頑なだった。
 
 プロ野球セ・リーグのクライマックスシリーズ1st第2戦は、4−4で迎えた9回裏、DeNAが代打の乙坂智による2点本塁打で阪神にサヨナラ勝ち。対戦成績を1勝1敗のタイに戻した。

 9回表、2死を取りながらクローザーの山崎康晃が阪神の3番・福留孝介に同点本塁打を浴びた試合は非常に苦しいものだった。

 しかし、試合を決めたのは指揮官の断固な決断だった。

「NO、NO  NO」

 DeNAのアレックス・ラミレス監督がそう即答して振り返ったのは9回裏、1死1塁のサヨナラの場面だ。投手の山崎に代えて、代打・乙坂を送り出したのだが、「送りバントのサインを出す選択肢」を問われると、指揮官はそういってかぶりを振ったのだった。

 指揮官には忘れ得ぬシーンがあったという。
 2年前のクライマックスシリーズの阪神戦の第2戦。乙坂が3点本塁打を放った試合のことだ。「(今日の場面の代打は)佐野と乙坂の二つがあったのだが、あの日のことがフラッシュバックして乙坂に代打を送ると決めた」。
 
 そんな指揮官に、送りバントという小細工など必要なかったというわけだ。
 
 相手の阪神は好調な打線がありながら確実にバントで走者を進めて得点を狙ってきた。前日5打点の北條史也に2試合連続して初回から送りバントを命じる手堅い攻めに手を焼いたが、それでもラミレス監督は頑なに「ベイスターズの型」にこだわり続けたのである。

 しかも、乙坂が対峙した相手は、今季の防御率が1.01のサウスポー・岩崎優だったにも関わらずだ。

 そして、乙坂は初球、バントの構えを見せた。カウントはボールだった。
 ラミレス監督はこのシーンを絶賛している。

「あれがかなり大きかった。守備位置を見てやったということだが、その時の球がボールになって、彼有利に進んでいった」

 この言葉には二つの意味がある。
 一つはボールが先行したことで、次球に対して迷いなくコンタクトしていけたこと。もう一つはバントの構えを見せたことで、相手バッテリーに少しの迷いを生んだことである。

 乙坂の真相はこうだ。

「守備体形を見てやりましたけど、ストライクが来るとは考えず、ボールにするんじゃないかと思った。(相手にバントが来るかもしれないと思わせたかった?)一応、そうです」

 結果、フルスイングし、乙坂がサヨナラのアーチをかけた。