専門5誌オリジナル情報満載のスポーツ総合サイト

  • サッカーダイジェスト
  • WORLD SOCCER DIGEST
  • スマッシュ
  • DUNK SHOT
  • Slugger
MLB

来年度の殿堂入り投票はA-RODとパピも候補に。“ステロイドユーザー”たちにはどんな審判が下されるのか<SLUGGER>

宇根夏樹

2021.02.16

ヤンキースなどで23年間プレーしたロドリゲス(左)は、98年に史上3人目の40-40も達成した5ツール・プレーヤー。一方のオティーズ(右)はレッドソックスの3度の世界一に貢献した史上最高クラスのDHだ。(C)Getty Images

ヤンキースなどで23年間プレーしたロドリゲス(左)は、98年に史上3人目の40-40も達成した5ツール・プレーヤー。一方のオティーズ(右)はレッドソックスの3度の世界一に貢献した史上最高クラスのDHだ。(C)Getty Images

 2021年度のアメリカ野球殿堂入りは、8年ぶりの選出なしという結果になった。記者投票にかかった25人の候補は、いずれも得票率75%に届かず。コロナ禍のためベテランズ委員会の選考は行われず、来年度以降に先送りされた。

 新たな殿堂選手が誕生しなかった大きな理由は、今年、初の投票対象となった候補者の顔ぶれにある。昨年11月に新候補の11人が発表された際、『CBSスポーツ』のマット・スナイダーは「有力者不在」と評した。実際、次回も引き続き候補に残る得票率5%以上は、マーク・バーリー(11.0%)とトリ・ハンター(9.5%)、ティム・ハドソン(5.2%)の3人にとどまり、候補から消えた8人中5人には1票も入らなかった。

 一方、来年度の資格初年度には大物がいる。まずは歴代4位の696本塁打と2086打点を誇る、"A-ROD"ことアレックス・ロドリゲスだ。ロドリゲスは通算3000安打と300盗塁も達成し、MVPは3度受賞している。総合指標のWAR117.5(『Baseball Reference』版)は、歴代16位に位置する。

 ただ、ロドリゲスには13年に発覚したバイオジェネシス・スキャンダルで禁止薬物の使用が明るみとなり、14年シーズンは全試合出場停止処分を科された過去がある。歴代最多の762本塁打を放ったバリー・ボンズや、歴代9位の354勝を挙げているロジャー・クレメンスのように、薬物疑惑が殿堂入り投票に影響を及ぼす可能性はありそうだ。
 
 また、レッドソックスのハート&ソウル、”ビッグ・パピ”デビッド・オティーズも候補になる。歴代17位の541本塁打と22位の1768打点を記録し、通算OPSはA-RODとほぼ同じ。WARは55.3と大きく劣るが、オティーズは稀代のクラッチヒッターだった。特にポストシーズンの活躍は際立っていて、通算61打点はデレク・ジーターと並び歴代4位。ジーターの約半分の打席数にもかかわらずこの数字で、現役時代のオティーズはまさにボストンのヒーローだった。

 だが、オティーズもドーピングとは完全に無縁ではない。03年の検査で、ステロイドの陽性反応が出ていたことが09年に判明した。ただ、これは罰則規定ができる前の予備検査であり、まだ検査自体も未発達で、精度には疑問が残る。リスト自体も本来極秘の資料を不正にリークしたものであり、どこまで信憑性があるのかも分からない。

 加えてオティーズは、薬物規定が制定された04年以降、いかなる検査でも陽性反応を示したことはないので、A-RODとはやや事情が異なる。陽性と判定されたことがないのはボンズとクレメンスも同様だが、2人は数々の証言や傍証などで、薬物使用がほぼ確実視されている。そのため、ボンズとクレメンス、そしてA-RODにも投票しないが、オティーズには投票するという記者もいると思われる。

 だが個人的には、もし来年、ボンズとクレメンスが殿堂入りできず、逆にロドリゲスとオティーズが殿堂に迎えられるとなれば、整合性に欠ける気がする。実績を比べれば、投手のクレメンスは別にしても、ボンズはロドリゲスとオティーズを上回る。ボンズは歴代最多のMVP7度と実績は折り紙付き。ロドリゲスと違い、オティーズは出場停止処分を科されたことはないが、その点はボンズとクレメンスも同じだ。禁止薬物を使用した選手に対して、投票する記者たちはどのような審判を下すのか。来年度の投票は今年以上に注目だ。

文●宇根夏樹

【著者プロフィール】
うね・なつき/1968年生まれ。三重県出身。『スラッガー』元編集長。現在はフリーライターとして『スラッガー』やYahoo! 個人ニュースなどに寄稿。著書に『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

【PHOTO】スター選手が勢ぞろい! 2020MLBプレーヤーランキングTOP30
NEXT
PAGE

RECOMMENDオススメ情報

MAGAZINE雑誌最新号