毎年新たなスターが出現するプロ野球の世界。しかし年俸が数億円を超えるような選手も、必ずしもプロ入り前から高い評価を受けてきたわけではない。そんなスター選手のアマチュア時代の姿を年間300試合現地で取材するスポーツライターの西尾典文氏に振り返ってもらった。今回は瞬く間にセ・リーグを代表する打者へと成長を遂げた村上宗隆(ヤクルト)を取り上げる。
【PHOTOギャラリー】球界を牽引するスター選手たちの「高校」「大学」当時を秘蔵写真で振り返る
村上の名が知れ渡ることになったのは1年夏の熊本大会初戦だ。その年の選抜にも出場していた九州学院高の中でも4番を任され、夏の初打席でいきなり満塁ホームランを放って見せたのだ。ただこの後に出場した甲子園での遊学館戦でそのプレーを初めて見たが、小孫竜二(現鷺宮製作所)の前に4打数ノーヒットに抑えられ、守っても2失策だったこともあり、強いインパクトは残っていない。1年生にしては同道した体格と雰囲気があるという程度の印象だった。
そんな村上の印象がガラリと変わったのが翌年春に出場した九州大会の佐賀商戦だ。この試合、村上は3番、捕手として出場。第1打席ではセカンドへの内野安打、第3打席でライト前ヒットを放っているが、それよりも驚かされたのは第2打席のセンターフライだった。相手投手は技巧派のサイドスローだったが、その抜いたボールに少し泳がされて軽く合わせたような打球がセンターのフェンス一歩手前まで伸びていったのである。
金属バットということを差し引いて考えても、これだけの長打力はなかなか見られるものではない。相手の守備も第1打席からセカンドを大きく一二塁間に寄せてライトとセンターは下がって守るなど村上をかなり警戒しており、最後の2打席は勝負を避けられて四球を選んでいる。
また捕手としてもイニング間のセカンド送球は2.00秒を切り、見事なスローイングを見せていた。もうひとつ目立ったのは脚力である。第1打席の内野安打では振り切った後に少し出足が遅れたものの、一塁到達タイムは4.29秒とまずまずの数字をマークしている。プロでも一年目から二軍で16盗塁をマークしており、昨年は一軍でチーム2位となる11盗塁を決めているが、その片鱗を伺うことはできた。
村上が2年となってからの熊本は秀岳館が圧倒的に強く、結局大舞台での活躍を見ることはできなかったが、3年時には更にスケールアップし、清宮幸太郎(日本ハム)、安田尚憲(ロッテ)と比べても遜色ないだけのパワーを見せており、外れ1位で重複したことも全く不思議とは感じなかった。
ただプロでここまで早く4番に定着できると予想していた人はおそらくいなかっただろう。その成長スピードの速さにはただただ驚かされるばかりだが、捕手をしっかりこなせる体の強さと脚力を備えていたことがプラスに働いたのは間違いない。今年は史上最年少での通算100本塁打にも期待がかかるが、近い将来は令和初の三冠王もぜひ目指してもらいたい。
文●西尾典文
【著者プロフィール】
にしお・のりふみ。1979年、愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。アマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。
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村上の名が知れ渡ることになったのは1年夏の熊本大会初戦だ。その年の選抜にも出場していた九州学院高の中でも4番を任され、夏の初打席でいきなり満塁ホームランを放って見せたのだ。ただこの後に出場した甲子園での遊学館戦でそのプレーを初めて見たが、小孫竜二(現鷺宮製作所)の前に4打数ノーヒットに抑えられ、守っても2失策だったこともあり、強いインパクトは残っていない。1年生にしては同道した体格と雰囲気があるという程度の印象だった。
そんな村上の印象がガラリと変わったのが翌年春に出場した九州大会の佐賀商戦だ。この試合、村上は3番、捕手として出場。第1打席ではセカンドへの内野安打、第3打席でライト前ヒットを放っているが、それよりも驚かされたのは第2打席のセンターフライだった。相手投手は技巧派のサイドスローだったが、その抜いたボールに少し泳がされて軽く合わせたような打球がセンターのフェンス一歩手前まで伸びていったのである。
金属バットということを差し引いて考えても、これだけの長打力はなかなか見られるものではない。相手の守備も第1打席からセカンドを大きく一二塁間に寄せてライトとセンターは下がって守るなど村上をかなり警戒しており、最後の2打席は勝負を避けられて四球を選んでいる。
また捕手としてもイニング間のセカンド送球は2.00秒を切り、見事なスローイングを見せていた。もうひとつ目立ったのは脚力である。第1打席の内野安打では振り切った後に少し出足が遅れたものの、一塁到達タイムは4.29秒とまずまずの数字をマークしている。プロでも一年目から二軍で16盗塁をマークしており、昨年は一軍でチーム2位となる11盗塁を決めているが、その片鱗を伺うことはできた。
村上が2年となってからの熊本は秀岳館が圧倒的に強く、結局大舞台での活躍を見ることはできなかったが、3年時には更にスケールアップし、清宮幸太郎(日本ハム)、安田尚憲(ロッテ)と比べても遜色ないだけのパワーを見せており、外れ1位で重複したことも全く不思議とは感じなかった。
ただプロでここまで早く4番に定着できると予想していた人はおそらくいなかっただろう。その成長スピードの速さにはただただ驚かされるばかりだが、捕手をしっかりこなせる体の強さと脚力を備えていたことがプラスに働いたのは間違いない。今年は史上最年少での通算100本塁打にも期待がかかるが、近い将来は令和初の三冠王もぜひ目指してもらいたい。
文●西尾典文
【著者プロフィール】
にしお・のりふみ。1979年、愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。アマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。