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MLB

MLBと提携する独立リーグで導入された2つの新ルールは本当に選手を守るのか? 注目すべきベテラン投手の声

宇根夏樹

2021.04.28

マウンドの投手板の位置が30センチ動く。小さなようでいて実はとても大きな変化になるかも……?(C)Getty Images

マウンドの投手板の位置が30センチ動く。小さなようでいて実はとても大きな変化になるかも……?(C)Getty Images

 独立リーグのアトランティック・リーグは、今シーズンも新たなルールを適用する。同リーグは2019年からMLBと提携しており、MLBが考案したルールの効果・影響などを試験的に測定するため、これまでも“打者3人ルール”や“ロボット審判”などを採用してきた。

 4月15日にMLBが発表した新ルールは、「指名打者のダブル・フック」と「投手板の位置変更」の2つだ。

「指名打者のダブル・フック」は、先発投手の降板と同時にDH制が解除されるというルール。つまりは、リリーフ投手を打席に立たせるか、代打を起用するかのどちらかを選択することになる。

 言ってみれば、DH制のないナ・リーグとDH制のあるア・リーグの折衷案だ。MLBのリリースによると、このルールの導入によって、先発投手の投げるイニングが伸びるとともに、試合終盤の戦略要素が増す効果が期待できるという。

 もう一方の「投手板の位置変更」は、後半戦からスタートする。投手板を後ろにずらし、60フィート6インチ(18.44メートル)だったホームまでの距離を61フィート6インチ(18.75メートル)とする。その差は12インチ、約30cmだ。当然、同じ球速でも打者に到達するまでの間が延びる。

 MLBは、打者の反応時間が長くなることで、打撃が活発になって三振が減ると予測。また、投手が投球のメカニクスを変える必要は生じないので、故障のリスクが増加するという証拠はないとも謳っている。
 
 だが、本当にそうなのだろうか。例えば、まったくメカニクスを変えずにスプリッターを投げた場合、これまでは60フィート6インチ向こうにある本塁の直前で落ちていたのが、61フィート6インチの場合、かなり手前で落下する。そうなれば、打者は手を出さず、単なるボール球になってしまう。すべての投手が、距離の変更に適応できるとは限らない。何しろ1893年以降、投手板とホームまでの距離はまったく変わっていないのだ。

 ベテラン左腕のリッチ・ヒル(レイズ)は、この新ルールで「投手の故障が増える可能性がある」と懸念を表明している。ヒルはまた、選手会の後ろ盾があるメジャーリーガーと違い、守ってくれる組合もない独立リーガーのキャリアを危険に晒すことにも反対している。

 ヒルが独立リーガ―たちの置かれた立場について意見を表明した点は注目すべきだろう。彼はメジャー17年目の大ベテランだが、歩んできた道は平坦ではない。6年前にはアトランティック・リーグで投げてもいた。

「実験がどうなるか」だけではなく、「実験に利用される選手たちがどうなるか」ということに、MLB機構もアトランティック・リーグ事務局も、そして我々ももっと思いを馳せるべきかもしれない。

文●宇根夏樹

【著者プロフィール】
うね・なつき/1968年生まれ。三重県出身。『スラッガー』元編集長。現在はフリーライターとして『スラッガー』やYahoo! 個人ニュースなどに寄稿。著書に『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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