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ステロイド問題の過ちが再び繰り返されるのか――MLBを揺るがす“不正投球”問題の本質【後編】<SLUGGER> 

出野哲也

2021.06.08

ローリングス社が提供するMLBの公式球は、日本のものよりも表面がツルツルしていて滑りやすいという。「ボールに問題がある」とダルビッシュ有も指摘するが……。(C)Getty Images

ローリングス社が提供するMLBの公式球は、日本のものよりも表面がツルツルしていて滑りやすいという。「ボールに問題がある」とダルビッシュ有も指摘するが……。(C)Getty Images

 メジャーリーグの歴史を振り返ると、違反投球は古くから繰り返されてきた。その代表が、指に唾をつけて変化を生み出すスピットボールで、これは1919年まで合法とされていた。他にもヤスリなどで傷をつけるエメリーボール、グリースを塗るグリースボールなど、投手たちはさまざまな工夫をこらした。

 これらの投球が禁止されてからも、実際には投げる者が後を絶たなかった。中でも不正投球の達人として知られたゲイロード・ペリーは、通算314勝を挙げて殿堂入りしている。ペリーは現代の投手がスピットボールを投げなくなったのは「その必要がないからだろう」と言っていたが、実際には似たような効果のあるボールが今も日常的に使われているのだ。

 もっとも、投手たちを一方的に責めるのは酷かもしれない。「打者はバットに滑り止めの松ヤニを塗るのだから、投手にも認められるべきだ」(通算283勝のジム・カット)との主張にも一理あるからだ。ダルビッシュも同様の趣旨の発言をしており、こうした不公平感はどの投手も抱いているようだ。

 MLBも、これまで何の手も打っていなかったわけではない。昨年開幕前には全球団に「ボールに異物を付着させないよう」求める文書を送付。今年5月26日にはカーディナルスのジオバニー・ガイエゴスが、異物がついているとの理由で球審に帽子を没収された。6月3日にはマイナーリーグの4投手が不正投球で出場停止処分を科されている。
 

 そして5日には、新たな取り締まり策の方針が固まったとESPNが報道した。試合中にボールを無作為に抽出し、先発投手は最低2回、1試合で8~10回の検査を行なう。違反が確認されれば10日程度の出場停止処分となり、対象は捕手や野手にも及ぶ。これらの措置は、早ければ14日から実施される見込みだという。

 もっとも、トレバー・バウアー(ドジャース)が「異物がついたボールが見つかったとして、それを投手がつけたのか、別の野手がつけたものか、あるいは打者のバットについていた松ヤニだったのかは判別できない」と以前から言っているように、どのくらい実効性があるかは分からない。

 ところで、それほどまでに違反投球が広まっているのなら、なぜ今まで現場から声が上がらなかったのだろうか。監督には異常を感知したら、審判に対しボールを調べるよう要求できる権利があるはずだ。その答えは至極単純で、「自分のチームの投手も同罪だから」。全員が共犯とも言うべき状況では、打者も含めて声を上げにくいとの心理が働いてもおかしくない。
 
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