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大谷翔平のバントが思い起こさせた、イチローの言葉。「頭を使わない野球」の時代に現われた偉才の価値

新井裕貴(SLUGGER編集部)

2021.06.18

イチローが引退会見で語った現代野球の“問題点”を、大谷なりの“答え”で示したようなプレーがあった。(C)Getty Images

 このプレーを簡単に決め、いやそもそも、発想が浮かんだ時点で、大谷翔平(ロサンゼルス・エンジェルス)という選手は、"他"とは一線を画する存在なのだろう。

 現地時間6月16日、敵地で行なわれたオークランド・アスレティックス戦の5回。先頭打者として打席に入った大谷は、2回に今季19号ホームランを放った直後にもかかわらず、三塁線にセーフティバントをあっさりと決めて見せた。この時は4対1でエンジェルスがリードしており、追加点を取るのだという意志が垣間見えた。

 実際、大谷は試合後の会見でこう語っている。

「本塁打で1点よりは確率が高いかなと思ったので、確実に出られるところですし、まだ試合もどっちか分からない状態だったので、先頭で出た方が有効かなと思いました」
 
 大谷が簡単そうにバント安打を決めることができたのは、シフトを敷かれていたからだ。大谷はセンターからライト方向への打球が多いことから、相手チームにわざわざ定位置に入る必要がないと判断され、三塁手がセカンドベース後方、遊撃手は定位置よりややセンター寄り、二塁手はライト前あたりにつく守備体系を取られている。

 そのため、16日の試合で決めたように三塁線のバントは、うまく転がればほぼ確実に出塁することが可能である。そしてシフトは大谷に限った話ではなく、打球傾向に特徴がある選手はほぼ一様に敷かれる。しかし、打者ががら空きとなった場所に打球を意図して転がすことはそれほど多くない。

 なぜか。守備側からすると、例えば大谷のような長打の打てる選手がシングルヒットを狙ってくるなら御の字と考えているからだ。より失点につながる長打リスクが軽減されるので、後続の打者を抑えればいいという判断になる。一方、打者側には「相手の思惑に乗っている」「姑息な手段」という心理面のマイナスが働くとされ、ある意味で"win-win"の関係性から成り立っているのである。

 もっとも、圧倒的に勝っているとされるのは守備側だ。試合を見ていれば分かる通り、センター前に抜けそうな打球や一二塁間を破った打球がシフトの網にかかっているのは、MLBではお馴染みの光景。実際、2011年に全体で2350回に過ぎなかったシフト回数は年々増加。2014年に1万回、2016年に2万回、2018年は3万回、2019年は約5万回、そして昨年は短縮シーズンでなければ、6万4000回に上っていたとのデータがある。
 
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