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日本と違う独特の「間」――筒香嘉智、新天地で結実したアメリカ野球への適応<SLUGGER>

ナガオ勝司

2021.09.22

パイレーツ移籍後はシーズン40本塁打以上のペースでアーチを量産し続けている。(C)Getty Images

「シカゴって、いいところですよね」

 キャッチボールを始めたばかりの筒香嘉智選手(パイレーツ)が突然、そう言ったのは9月上旬、カブスの本拠地リグリーフィールドでのことだった。外野フェンスを伝う蔦の葉が緩やかな風に小刻みに動く、涼しい日だった。

「チームメイトも皆、『いいところだぞ』って言ってるんですけど、僕もそう思うんです」

 新型コロナウイルスの感染拡大で、試合後の取材は(目立った活躍をすれば)ズームによるオンライン会見のみ。そこでの彼は余計なことは喋らない朴訥としたイメージだが、目の前には画面を通じてみる彼とは少し違う、どこか楽しそうな人がいた。

 楽しくて当たり前なのかも知れない。レイズやドジャースでは打率1割台でホームランもゼロだったのに、パイレーツではシカゴに来た時点で27打数9安打(打率.333)、5塁打、11打点と打ちまくったおかげで、完全にレギュラー選手の扱いだった。その勢いはシカゴ遠征の後も続き、パイレーツでは9月20日(現地)時点で打率.306、出塁率.394、長打率.682(OPSはなんと1.076だ!)、8本塁打、21打点と「チームの主軸打者」である。
 
 そういう認識は日本メディアだけではない。たとえばパイレーツの中継局では、元パイレーツで現解説者のケビン・ヤング氏が「この打線で本当の意味で相手チームの脅威となっているのは、ヨシだけかもしれない」などと言ったりする。

 では、なぜ筒香はレイズやドジャースでは活躍できず、パイレーツで活躍できるようになったのか?

 ドジャースのマイナー時代の数字(43試合で打率.257、OPS.868、10本塁打、32打点)を見れば、彼が以前よりもアメリカの野球に適応できるようになったのは簡単に推測できるが、パイレーツではそれ以上の成績を残している。これは本来の打撃に戻ったということか、それともマイナーの経験が生きているということなのだろうか?

「そこに関してはなかなか短時間で伝えることは難しいと思うんですけど、両方もちろんあると思います」

 シカゴで2試合連続本塁打を放った日、筒香はズーム会見でそう説明した。彼が慎重だったのは、打撃について確固たる考えがあり、簡単に答えては誤解を生む可能性があるからだろう。
 
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