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薬物スキャンダルとウソ、そして偽善にまみれた英雄。11年MVPのブラウンが現役引退【豊浦彰太郎のベースボール一刀両断!】<SLUGGER>

豊浦彰太郞

2021.09.29

ブラウンはメジャー通算1963安打、352本塁打&216盗塁。実績だけならブルワーズの歴史の中でも屈指だが、そのキャリアにはダーティな面もある。(C)Getty Images

 現地時間9月26日に行われたブルワーズ対メッツ戦の試合前に、2011年にナ・リーグMVPにも輝いたブルワーズの英雄、ライアン・ブラウンの引退セレモニーが行なわれた。

 今年で37歳になるブラウンは07年からブルワーズひと筋の現役生活を送ってきたが、昨年オフに球団からオプション契約を拒否され、フリーエージェントとなっていた。今季は春先から「もうプレーの意思はない」との発言を繰り返しながらもトレーニングは続けていたようで、揺れ動く心理が伺える。だが、結局、契約は勝ち取れずに、今月14日に、ブルワーズの球団ツイッターを通じて、映像で引退を表明していた。

 現役生活は14年。スーパースターにしてはそれほど長くはないが、全盛期のパフォーマンスは特筆に値するレベルだった。メジャー1年目はわずか113試合の出場ながら34本塁打を放って新人王に。翌年も37本塁打でチームを1982年以来のポストシーズン進出へ導き、ブルワーズ新時代の象徴的存在となった。

 11年にはリーグトップのOPS.994を残したのに加え、打率.332、33本塁打33盗塁のトリプルスリーも達成。前述の通りMVPに輝いた。さらに12年は41本塁打でタイトルを獲得し、2年連続トリプルスリーを記録してもいる。
 
 しかし、ブラウンのキャリアには華々しさだけがあるわけではない。薬物問題と、それに関するみっともない立ち振る舞いもスルーするわけには行かない。彼は傑出した選手であったが、史上有数の"残念な"人物でもあったのだ。

 MVPに選出された11年オフのことだ。ブラウンは薬物規定違反で50試合の出場停止を宣告された。プレーオフ中の抜き打ちテストで陽性反応が出たためだ。この処分に対してブラウンは提訴。その結果、調停委員会から「処分なし」の逆転裁定を勝ち取り、翌年2月にキャンプ地アリゾナで勝利の会見を行った。

 会見はブラウンの独壇場だった。「今日は冤罪に苦しむすべての人々のための日だ」とブチ上げ、自身の検体を管理した検査官を個人攻撃。あまつさえ「彼は反ユダヤ主義者(ブラウンはユダヤ系)で、(同地区のライバルの)カブスファンに違いない」とまで言い切った。
 
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しかしブラウンは無実ではなかった