プロ野球

「若手の登用」と「トレードの活用」――立浪和義・中日新監督に期待する「星野イズム」の継承<SLUGGER>

久保田市郎(SLUGGER編集長)

2021.10.29

就任会見に臨んだ立浪新監督。「真打ち」登場に、竜党からの期待は計り知れないほど大きい。写真:産経新聞社

 10月29日、立浪和義氏が正式に中日ドラゴンズの監督に就任した。現役時代に絶大な人気を誇った"ミスター・ドラゴンズ"が、引退から実に12年の歳月を経て指揮官としてチームに復帰。名古屋の街は大いに盛り上がるに違いない。

 だが、監督としては厳しい船出が待ち受けている。今季は5位に低迷し、ここ9年で負け越しが8度。12球団で最も長くCSから遠ざかっているチームでもある。

 そのことを十分意識してか、立浪氏は就任会見で次のように語った。「選手には勝ちに対する執念をしっかりと植えつけます。強いチームを作る、勝つ野球をする。そのためには妥協はしません」。

 このコメントを聞いて、1987~91年、96年~2001年にドラゴンズの指揮を執り、2度のリーグ優勝をもたらした星野仙一元監督の顔が思い浮かんだファンは少なくないはずだ。事実、監督就任報道が出てから、至る所で「星野イズムの継承」がキーワードのように語られてきた。
 
「星野イズム」と一口に言っても、さまざまな側面がある。伝説と化している鉄拳制裁などは、今の時代では到底受け入れられないだろう。では、立浪新監督が継承するべき「星野イズム」とは一体何なのか。「勝利への執念」は当然として、それ以外にもいくつか重要なポイントがある。

 まずは将来を担う若い才能、特に野手の登用だ。石川昂弥、根尾昂、岡林勇希、郡司裕也、石橋康太など、将来を嘱望される若手が多いドラゴンズだが、残念ながら今季は目立った躍進が見られなかった。25歳以下の選手が放った本塁打が根尾の1本だけという事実が、停滞ぶりを如実に物語っている。

 ただ、一方で、与田剛前監督ら首脳陣が若手登用に消極的だった面もある。たとえば、8月13日にファームから昇格した伊藤康祐は、そのまま10月中旬まで一軍に帯同したが、2か月間でたった21打席しか与えられなかった。分厚い選手層に阻まれてそうなったのならともかく、12球団ワーストの得点力にあえぐ中、結果が出ていない中堅/ベテランが優先して起用され続けていた点は否めない。

 振り返ってみれば、現役時代の立浪氏自身、星野監督の大抜擢によって表舞台に現れた選手だった。1987年にPL学園で甲子園春夏連覇を果たし、その年のドラフト1位で中日に入団。当初は自身も「最初の2、3年は二軍だと思っていた」そうだが、キャンプで一軍に抜擢されると、球界屈指の攻撃型遊撃手として鳴らしていた宇野勝を二塁に追いやってショートのレギュラーを獲得。いきなり高卒新人では史上初のゴールデン・グラブを受賞し、リーグ優勝に大きく貢献した。