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プロ野球

ヤクルトとオリックスは「時代を映す鏡」だった! 両軍が球界に吹き込んだ新風【氏原英明の日本シリーズ総括】<SLUGGER>

氏原英明

2021.11.29

ヤクルトの「育てながら勝つ」というビジョンは日本シリーズでも発揮され、見事に日本一に輝いた。写真:塚本凛平(THE DIGEST写真部)

ヤクルトの「育てながら勝つ」というビジョンは日本シリーズでも発揮され、見事に日本一に輝いた。写真:塚本凛平(THE DIGEST写真部)

 日本シリーズの練習を見ながら、ふと気づいたことがあった。

 両チームとも、監督がどこにいるのか分からないのだ。

 監督だけではない。コーチ陣もどこにいるのかが分からない。ノックバットを持っているか、バッティングゲージで時間配分を測っている面々がそうだと分かる程度だ。

 そう。監督然、コーチ然としている指導者がいないのである。選手が伸び伸びとプレーしやすい環境を整え、自分たちはその手伝いする。選手たちのパフォーマンスを最大限に引き上げようという配慮が感じられたのだ。

 この点も、両チームが日本シリーズまで勝ち上がってきた理由のひとつにも思えた。今回のシリーズでは、選手のパフォーマンスが最大限に引き出されていた。とくに投手起用に関しては「日本の歴史が変わった」と言ってもいいほどだった。
 
 まず衝撃的だったのはヤクルトが、第1戦で先発して7回1失点の好投を見せた高卒2年目の奥川恭伸を、第6戦の先発に立てなかった点だ。

 奥川は巨人とのクライマックスシリーズ初戦でプロ初完封。長いイニングをゲームメイクできる能力は、今のヤクルト投手陣でも上位に入るはずだ。しかし、この期待の右腕に対して、高津臣吾監督は無理をさせなかった。日本シリーズでも初戦を任せるほどに信頼を置きながら、同時に本人のコンディションにも配慮したのだ。

 これには、高津監督がシーズン中から続けてきた“マネジメント”が背景にある。奥川は今季18試合に先発したが、いずれも登板間隔を9日以上を空けている。登板後は抹消することがほとんどで、無理な登板は避けてきた。おそらく、チームの過去の失敗を踏まえた起用だろう。

 過去の失敗というのは、2007年ドラフト1位で入団した由規が顕著な例だ。由規は1年目から1軍デビューを果たすと、2年目から開幕ローテーション入り。ほとんどが中6日での起用だった。3年目の10年こそ規定投球回数に到達して2ケタ勝利と活躍したものの、4年目以降は故障を繰り返して大成することはできなかった。デビューからチームに定着するまでの期間で急ぎ過ぎた感は否めない。

 とはいえ、時に田中将大(楽天)のように高卒ながらデビュー直後から活躍を続ける選手もいる。由規のケースも球団が完全に判断ミスしたとまでは言えないが、それでも日本シリーズで高津監督が下した判断は間違っていないと思う。結果として日本一をつかみ、奥川の将来と引き換えに勝利を犠牲にしたわけではないからだ。

 若手に頼らず、頑張りどころは中堅やベテラン、外国人選手らに託す「勝つためのマネジメント」も光っていた。第3戦に先発した小川泰弘や第4戦の石川雅規は、中5日、あるいは中4日で第7戦の登板準備を進めていたし、胴上げ投手になったマクガフは第3戦から4連投。高津監督は“人を選んで”起用していたというわけだ。
 
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