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【エンジェルスの失われた10年:前編】“2000年代最高の選手”の獲得が暗黒期の始まりだった<SLUGGER>

久保田市郎(SLUGGER編集長)

2022.01.03

11年12月の入団会見に出席するプーホルス(右)とモレノ・オーナー(左)。球界最強打者の加入に黄金時代待ったなしと思われたが……。(C)Getty Images

11年12月の入団会見に出席するプーホルス(右)とモレノ・オーナー(左)。球界最強打者の加入に黄金時代待ったなしと思われたが……。(C)Getty Images

「大谷翔平選手はホームランを放ちました。なおエンジェルスは……」。今年、何度このフレーズを耳にしたことだろう。100年に一度の二刀流選手と球界最高のプレーヤーがいながら、なぜエンジェルスは勝てないのか。“負の歴史”は10年前に始まっていた――。

※スラッガー2021年11月号より転載(時系列は9月16日時点)

 メジャーリーグの頂点を決めるポストシーズンでは、これまでに数々の伝説の名場面が生まれてきた。ある意味ではそれも当然だ。大半のメジャーリーガーにとって、チャンピオンリングを手にすることこそが最大の目標なのだから。

 デレク・ジーターやデビッド・オティーズの神がかり的なクラッチも、ジャック・モリス、ランディ・ジョンソン、カート・シリングの熱投も、昨年、ムーキー・ベッツ(ドジャース)が見せた走攻守にわたる信じられない活躍も、すべてはワールドシリーズで優勝したいという強い思いがあったからこそ生まれたものだ。

 だが、大谷翔平(エンジェルス)は今年もその舞台に立つことなくシーズンを終えた。大谷だけではない。MVPを3度受賞し、球界最大のスーパースターとして君臨するマイク・トラウトは、メジャーで11年間プレーしながらポストシーズンでまだ3試合しか戦ったことがない。
 

 MLB史上でも屈指の実力者と、歴史を塗り替えた二刀流選手を擁し、豊富な資金力もありながら、なぜエンジェルスはプレーオフにすら出場できないのか。FA補強の失敗、ファーム組織の停滞、球団内の機能不全……。チームの“失われた10年”を検証する。

 2011年12月10日、エンジェル・スタジアムは熱気に満ちあふれていた。オフシーズンだというのに約4000人ものファンが球場に詰めかけ、一人の男の姿を一目見ようと待ち構えていた。男の名はアルバート・プーホルス。カーディナルスでメジャー1年目から10年連続打率3割&30本塁打&100打点を記録し、MVPに3度輝いた球界最強のスラッガーが10年2億5400万ドルという超破格の契約でエンジェルスに加入し、入団会見を行うことになっていたのだ。

 プーホルスとの契約は、オーナーのアート・モレノからの強烈な意思表示でもあった。00年代のエンジェルスは、MLBきっての模範球団としてリスペクトを集めていた。00年に就任したマイク・ソーシア監督に率いられ、02年に球団創設42年目にして初のワールドチャンピオンに輝くと、04年からの6年間で5度の地区優勝。戦略眼に秀でたソーシア監督の下、打ってはコンタクトヒッティングを重視。ビッグネームの選手はそう多くなかったが、1~9番まで抜け目のない打線を作り上げ、強力な投手陣と堅固な守備陣をバックに勝利を重ねた。マイナー組織も充実し、球団史上最高の全盛期を謳歌していた。

 そんなチームに稀代のスラッガーが加入したのだから、ファンが歓喜したのも無理はなかった。プーホルスと同時に、レンジャーズのエース左腕だったCJ・ウィルソンとも5年7750万ドルで契約。ずっとドジャースの陰に隠れていた〝衛星球団〞エンジェルスを真の強豪に押し上げる――この大型補強には、モレノのそんな思いが込められていた。

だが、入団会見では、プーホルスの年齢を懸念する質問が出た。この時すでに31歳。契約が終わる頃には41歳となる。この時、ジェリー・ディポートGM(当時)が語った言葉は、後から振り返れば何とも皮肉なものだった。

「“超人”から“偉大な選手”になることを、果たして『衰え』と呼ぶだろうか。私はアルバート・プーホルスの偉大な日々が終わったとは思わない。そうでなければ、我々は今日こうしてここに座っていないだろう」
 

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