プロ野球

「勝ち星=投手の実力」にあらず。勝利による評価の“限界”とは?【野球の“常識”を疑え!第1回】

DELTA

2022.06.06

投手の評価基準の一つに「勝利」が使われるが、果たしてこれは適切なアプローチなのだろうか。“神の子”田中も、運がなければ勝てないことは昨季証明されている。写真:徳原隆元

 今季は開幕から佐々木朗希(ロッテ)が鮮烈な投球を続けている。4月10日のオリックス戦で完全試合を達成し、次の登板でも8回パーフェクト。その後も好投を続け、6月2日時点で防御率1.33、奪三振率13.87、61イニングで被安打33と圧倒的な数字を残している。

 ただ、これほどの投球を続けながら、勝ち星はまだ5勝。これはNPBトップだが、5勝の投手は佐々木を含め8名もいる。勝ち星の観点で見た場合、佐々木は決して傑出しているわけではない。

 一般的に、勝ち星は「投手の実力」を示す重要な指標とされている。沢村賞の選考基準の一つには「15勝以上」という項目がある。実際、昨季のプロ野球で最も多くの勝ち星を挙げ、沢村賞にも選ばれたのは、誰が見ても図抜けていた山本由伸(オリックス)だった。

 だが、MLBでは投手の評価に勝ち星を使うことがほとんどなくなっている。一体なぜだろうか。

 まず最大の問題は、勝ち星は自チームの援護点に依存するという点だ。当たり前だが、勝ち星はチームが勝利した場合にしか記録されない。そしてチームが勝利するには、相手より多くの得点を奪うことが必要となる。だが、投手は自チームの得点にはほぼ関与できない。つまり、自分の実力とは関係ない要素に左右されてしまうということだ。

 最も顕著な例が昨年の田中将大(楽天)だろう。田中は2013年に前人未到の24勝0敗という伝説的なシーズンを送った。一方、日本球界に復帰した21年は4勝9敗。規定投球回をクリアしながらも、13年の活躍が嘘のように勝ち星が伸びなかった。
 
 もちろん、この2シーズンで比較すると13年の方が優れていた。単純に9イニングあたりの失点で見ても、13年が1.49点だったのに対して21年は3.12点。倍以上のペースで失点を許している。しかし、それ以上に大きな差を生んでいるのが援護点だ。

 9イニング平均の援護点を見ると、13年の田中は6.37点と大量の援護を得ているのに対し、21年はわずか2.31点。13年の田中をもってしても、この援護状況で投げていたら勝ち星は大きく減少していただろう。
 
 今季も、加藤貴之(日本ハム)が9イニングあたり2.10失点と好投を見せるも、援護点はわずか1.70点。自身は見事なピッチングを見せていながら、2勝4敗と負け越している。

 では、白星が先行していないから、加藤は投手としての力量がないと言えるのだろうか。もちろんそんなことはない。ここが、勝ち星の多寡で投手を評価することの"限界"と言っていい。他人の働きに依存してしまうがゆえに、個人に対する"適切"な評価からは遠のいてしまうわけだ。
 
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もし「勝利」という名前でなければこれほど市民権を得ていたか?