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大谷を引き留めて優勝を目指すか、放出してゼロからの再建を目指すか。エンジェルスの新オーナーに突きつけられる「2つのシナリオ」<SLUGGER>

久保田市郎(SLUGGER編集長)

2022.08.24

23年オフにFAとなる大谷の去就は、新しいオーナーの方針によっても左右されそうだ(C)Getty Images

 現地8月23日、エンジェルスのオーナー、アート・モレノが球団売却の意向を表明した。

 オーナーの交代は、来年オフにFAとなる大谷翔平の動向にも間違いなく大きな影響を与える。ここでは、他球団の例を参考にしながら、両極端な「2つのシナリオ」について考えてみよう。

▼1 超大型延長契約&怒濤の大補強
 現オーナーのモレノは常に総年俸を1億8000万ドル前後にとどめる意向を持っていた。にもかかわらず、マイク・トラウトやアンソニー・レンドーンと超大型契約を交わしたため投手陣をはじめ他の補強ポイントに手が回らず、いびつな戦力構成になってしまっていた。これが近年のエンジェルス低迷の主たる要因であることは疑う余地はない。

 だが、ひとたび「1億8000万ドル」という制約を取っ払ってしまえば、話は変わってくる。費用対効果などかなぐり捨て、大谷と再契約を交わした上で他の大物選手も補強すれば、優勝を狙えるだけの戦力を築くことは不可能ではない。
 その好例がメッツだ。20年10月にヘッジファンドで巨額の富を築いたスティーブ・コーエンがオーナーに就任するや否や、怒濤の勢いで補強を展開。総年俸が一定の額を超えた際にペナルティとして課される戦力均衡税も何のその(モレノはこの戦力均衡税の支払いを極度に嫌っていた)とばかりに、フランシスコ・リンドーア、マックス・シャーザーら大物選手の"爆買い"を続けた。その結果、チームは今季ナ・リーグ東地区の首位を快走。7年ぶりの地区優勝、そして36年ぶりのワールドチャンピオンへ向けてひた走っている。

 だが、これは日本円にして1兆7500億円もの総資産を誇るコーエンだからこそできることでもある。エンジェルスがこれに追随する場合、新オーナーの資金力が大きなカギになりそうだ。

▼2 大谷もトラウトも放出してゼロからの再建ロードへ
 一方、オーナー交代を機に抜本的なチーム再建に乗り出すケースもある。11年、シーズン106敗を喫したアストロズは、新オーナーのジム・クレインの就任後、本格的な再建へ舵を切った。続く2年間で主力選手を軒並み放出して年俸総額を圧縮した一方で、ドラフトでカルロス・コレア、アレックス・ブレグマンなど好素材を獲得。データ分析を駆使したチーム改革も奏功し、15年に10年ぶりのプレーオフ進出を果たすと、17年には球団創設以来のワールドチャンピオンに輝いた。そして、同年から5年連続プレーオフに出場。今季も地区優勝を確実なものとし、今やアメリカン・リーグ随一の強豪として君臨している。
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マイナー組織の現状を考えると「再建」が正しい選択?