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アストロズとフィリーズのポストシーズン対決は史上2度目。伝説の名勝負となった42年前の激闘を振り返る<SLUGGER>

出野哲也

2022.10.26

当時のアストロズの本拠地アストロドームで、リーグ優勝を決めたフィリーズ。どちらかといえば守備の人のマドックス(写真中央)が殊勲打を放ち、ウイニングボールもつかんだ。(C)Getty Images

 2022年のワールドシリーズはアストロズとフィリーズの対戦となった。シリーズでは初顔合わせの両球団だが、過去に一度だけポストシーズンで戦ったことがある。アストロズが12年までナショナル・リーグに所属していたからだ。1980年、東地区を制したフィリーズと、球団創設19年目で初の西地区覇者となったアストロズによるリーグ優勝決定シリーズ(LCS)は、5試合中4試合が延長戦へもつれ込んだ史上屈指の名シリーズとして記憶されている。

 今年と同じく、当時のアストロズも強力な投手陣を擁していた。20勝を挙げたナックルボーラーのジョー・ニークロと、稀代の速球王ノーラン・ライアンが二枚看板。ライアンはこの年FAでエンジェルスから移籍し、史上初の年俸100万ドル投手となっていた。この2人を凌ぐエース格のJR・リチャードがシーズン中に心臓疾患で離脱しながらも、チーム防御率3.10はリーグ1位だった。

 一方のフィリーズは、24勝で3回目のサイ・ヤング賞に輝いた名左腕スティーブ・カールトン、48本塁打で4度目の本塁打王、そして初のMVPを受賞した三塁手マイク・シュミットが投打の両輪。通算安打数を3751本まで伸ばしていたピート・ローズも、39歳ながらリーグ最多の42二塁打を放っていた。
 
 6万5277人もの大観衆がフィラデルフィアのベテランズ・スタジアムに押し寄せた第1戦は、カールトンを先発に立てたフィリーズが3対1で逆転勝ち。6回に4番打者グレッグ・ルジンスキーが打った逆転2ランは、このシリーズで両軍を通じて唯一のホームランだった。続く第2戦は3対3で延長戦に入り、10回表にアストロズがホセ・クルーズの勝ち越しタイムリーなどで一挙4点。1勝1敗で舞台はヒューストンへ移る。

 ドーム球場では史上初のポストシーズン・ゲームとなった第3戦、アストロズはニークロが好投、フィリーズは3投手の継投で0対0のまま9回を終了。ニークロは10回表も0点に抑え、11回は2番手のデーブ・スミスがピンチを切り抜ける。その裏、フィリーズは3連投のタグ・マグローが4イニング目のマウンドに上がったが、先頭のジョー・モーガンに三塁打を打たれ、満塁策の末にデニー・ウォーリングがサヨナラ犠飛。アストロズが初優勝に王手をかけた(当時のLCSは5試合制)。

 4戦目もアストロズは優位に試合を進める。4回にアート・ハウの犠飛でカールトンから先制点を奪うと、5回はラファエル・ランデストイのタイムリーで2点目。先発のバーン・ルールも7回まで0点に抑えた。だが8回、ローズのタイムリーでフィリーズは1点を返し、ルールをマウンドから引きずり下ろすと、シュミットの内野安打で同点、マニー・トリーヨの犠飛で逆転に成功する。
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アストロドームは興奮の坩堝と化した