プロ野球

先発投手が全員100球以内で降板の日本シリーズ。オリックスが見せた新時代の戦い方<SLUGGER>

氏原英明

2022.10.31

若手を辛抱強く起用し続け、ついにつかんだ球団26年ぶりの日本一。中嶋監督の身体が宙を舞った。写真:田中研治(THE DIGEST写真部)

 一人の投手の熱投が騒がれる時代ではなくなった。

 かつての日本シリーズでもあった、先発投手が160球以上を投げ、翌日クローザーとしてマウンドに上がることはもうないのだろう。

 2022年の日本シリーズを見ていて、そんなことを思った。

 オリックス、そして、ヤクルトが見せた戦いは、特定の選手ばかりに依存しない新時代の野球だった。驚くかもしれないが、今年の日本シリーズでは、100球以上を投げた投手がいなかったのだ。

 もちろん、オリックスの絶対的エース山本由伸が、初戦で故障離脱したという事情はある。それでも、100球超えが誰もいなかったという事実にはただただ驚かざるを得ない。

 特に、オリックスを26年ぶりの日本一に導いた中嶋聡監督のマネジメントには一目を置くべきだろう。

「マネジメントできたかどうかは分かりませんけど、調子の良い選手をどんどん使って全員で勝つということを目指してきた。本当にそれをシンプルにやりました」

 日本一決定後のヒーローインタビューでの中嶋監督の言葉だ。

 中嶋監督の言葉を聞いていて、いつも感じるのは、どこまでも選手の可能性に期待しているということだ。

 信頼とはまた違うが、一人の野球人として、進化する現在の野球や若い選手たちの変化を感じていて、そこにリスペクトがある。次の言葉は彼の指導者としての根幹の部分だ。
 
「就任当初から本当に才能豊かな選手が多いんですけど、まだまだ力を発揮できていないのが正直な感想で、何とかしたいなと思いました。最初は何から始めたらいいか分かりませんでしたけど、素直で勝つことに飢えている選手が多かったんで、環境づくりから始めてやってきました」

 選手の可能性を信じ、誰もが活躍できる場所を用意した。

 一つの失敗、敗戦だけで選手を評価することはなく、できるだけ機会を創出するのが中嶋監督だ。

 このシリーズでも、それは随所に見えた。

 当初のプランは当然あるが、それが崩れても冷静に対処できたのは、中嶋監督の眼力と、それだけの環境を作ってきた賜物だろう。

 第2戦、クローザーの阿部翔太が9回裏の土壇場で3点リードを守りきれなかった。ペナントレースなら同じ場面で起用するだろうが、中嶋監督は第5戦の6回途中から4番手で起用。阿部は回跨ぎで粘りのピッチングを見せ、逆転勝利に貢献した。力を発揮する場所を少し変えてあげることで、現有戦力をうまく使ったのだ。

 また、このシリーズで分岐点となったのは、10月26日の第4戦だ。

 先発の山岡泰輔は無失点投球を続けていたが、5回1死から三塁打を浴びた場面で交代。代わって、今年育成から這い上がった宇田川優希を投入した。このピンチを宇田川が、圧倒的なパワーピッチングで脱したのだ。

 中嶋監督は言う。

「このピッチャーたちで行けると思えたのは、2戦目に9回に同点に追いつかれた後、勝ち越されなかったからです。それから分水嶺になったのは4戦目で名前を挙げるとしたら宇田川でしょうね」

 中嶋監督は、宇田川と、彼に続いて登板した山崎颯一郎の2人を、「ヤクルトに通用する」と、その後の起用法を切り替えた。

 そうしてどの選手を重用していくかが決まったら、いかにして彼らのパフォーマンスが保たれるかを考えた。短期決戦といっても短いようで長い日本シリーズの特性を捉え、次戦の第5戦ではこの2人をベンチから外している。山場となる第6戦以降に使えるように準備したのである。

「2人はしっかり抑えたから次もと思いますけど、まだ投手がいますから。誰もいないわけじゃない。そこは別に自信がありますよ。目の前の試合を勝ちに行くんですけど、ブルペンには9枚の投手を入れているわけです。(近藤)大亮が点を取られましたけど、あれは守備の方の問題であって、別に大亮が悪かったわけじゃない。それを考えたらこの2人を休ますっていう選択に別に何も思わないです」