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高校野球

甲子園優勝2回の名将、日大三高・小倉全由監督が勇退。20年以上の取材を重ねた記者が綴る勝負師の知られざる素顔

矢崎良一

2023.02.09

 グラウンドでの取材の思い出は、語り尽くせないほどある。ただ、あえて一つ挙げるなら、2010年の冬の強化合宿での出来事だろう。

 日大三高のグラウンドには、よくOBたちが顔を出す。そのたびに小倉監督は嬉しそうに現役部員たちに紹介する。その日は、小倉監督にとって初の日本一だった2001年夏の甲子園優勝チームの4番打者だった原島正光(明大―日立製作所)が訪れた。

 小倉監督はすぐにグラウンドに招き入れ、すでに現役を退いていた原島に「久しぶりに打ってみろよ」とバットを手渡した。コートを脱いで、私服、革靴で打席に立ったかつての主砲は、1球目をスイングすると、打球はライナーでライトのフェンスを越えていった。

 ざわつく部員たち。「なぁ、見たか。原島は凄えだろ~」。小倉監督はうわずった声で部員たちに何度も言った。

 この何日か前、小倉監督は雑談の中で、ポロッとこんなことを話していた。

「原島はね、自分の中で、ちょっと後悔してるところがあるんですよ。プロに行かせてやればよかったのかなって。あいつ、明治に行きたいもんだとばっかり思っていたんで。でも、周りのやつらがみんなプロ入りして、あいつも行きたかったんでしょうねぇ。自分が気づいてやれなかったんですよ」
 
 この優勝チームからは、近藤一樹(元・ヤクルト)ら4人がドラフト指名を受けてプロ入りした。しかし、甲子園で3試合連続本塁打を記録しもっとも注目を集めた原島は、当初の予定通り明大に進学。大学、社会人と素質を開花させられずに終わった。

 その未完の大器が後輩たちに見せた最高にかっこいい姿。笑顔の小倉監督の目に光るものがあったのを今も覚えている。監督の思いを知るだけに、見ている私も胸が熱くなった。そして、この合宿をやり遂げた部員たちが翌夏の甲子園で優勝。この時期の日大三高と小倉監督の取材は、私にとっても本当に幸運で幸せな時間だった。

 電話の最後に「今後は、何かの形で日大三高のチームには関わられるのですか?」と尋ねると、「もう現場は卒業です。新しい監督がやることですから、いっさい口は出しません。でもOBですから、OB会なんかには行って、チームが勝てないような時にも、誰かしら批判するようなOBがいたら、『そんなこと言わずに、みんなで応援してあげましょう』って言ってやるつもりです」と楽しそうに笑った。新監督は長く小倉監督と二人三脚でチームを作ってきた三木有造部長が就任するという。新監督にとっては、何よりも心強いバックアップだろう。

 この日、義理堅い小倉監督は、こうして付き合いのある記者の方々に、丁寧に電話を掛け挨拶をされていたのだろう。そんな中の一人に、私も入れてもらえたことは記者冥利に尽きる。良い取材をさせてもらい、勝手に教え子の一人のような気持ちでお付き合いしてもらえたことに、あらためて感謝したい。

 じつは2011年の夏に甲子園優勝を果たしたチームのノンフィクションを執筆するために、2年ほど前から当時のメンバーの取材を続けている。もちろん小倉監督にもお話を聞いた。強く心に残る言葉がたくさんあった。はからずも、それが現役監督としては最後のインタビューとなった。いつにもまして、良い記事を書かなくてはいけない。そうやって、これからも小倉監督の言葉を世の中に発信していけたらと思っている。

取材・文●矢崎良一

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