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「昔はゲンコツ1発で――」大阪桐蔭・西谷浩一監督も漏らす指導の変化。暴力が絶えない高校球界はどう変わるべきなのか

氏原英明

2023.02.11

大阪桐蔭を全国屈指の強豪へと押し上げた西谷監督。この稀代の勝負師も時代の変化を敏感に感じ取っていた。(C)THE DIGEST

 年明けになって明るみになった3つのニュースは、高校野球界が旧態依然とした体質を改善できていない状態にあるのを示す残念なものだった。

 まず、2月1日にセンバツ出場が決まった東海大菅生で、若林弘泰前監督による体罰があり、大会前に解任されたという一報。そして大阪産業大高校も昨秋に体罰の報告があった監督の解任を決定し、宮崎の延岡学園でも指導者のパワハラによって、元生徒から学校側が訴えられたのである。

 3件目に関しては係争中であり、どうなっていくかは見守っていくしかない。しかしながら、上記のような例が相次いで明るみになったのは、高校野球界にとって由々しき事態にあると言える。

 筆者は20年以上も高校野球の現場を取材してきた。そのなかで、とりわけここ数年で感じるのは、指導の在り方の変化だ。

「今の時代は厳しい指導ができないというわけではないのですが、子どもの頃からの育ち方が異なってきているので、やっぱり、手間暇をかけないといけなくなっています。昔は自分たちが受けてきたようにゲンコツ1発で、『よし、気合を入れて行くぞ』というのを自然と思ってやっていた。でもいまは一つ一つ対話をしていきながら教えていかないといけないのかなと思います」
 
 そう語っていたのは、2度の春夏連覇の経験を持つ大阪桐蔭の西谷浩一監督だった。高校野球界のトップにいる指導者はこうして変化を感じている。それでもなぜ、いまだ暴力を交えた指導は消えないのだろうか。

 ポイントとなるのは西谷監督が口にした「時間がかかる」という部分ではないか。

 高校野球の監督たちはあの手この手で、日々、指導法を探っている。だが、彼にとって最も大きな壁になっているのが時間との戦いだ。というのも、年間スケジュールが年々過密になっているからである。夏の全国大会を終えた後すぐに、秋大会が控えており、次の春に行なわれるセンバツ出場の参考となる負けられない戦いが続くのだ。

 地区によっては、夏の甲子園大会期間中に秋大会が始まるところもあるほどで、そうした厳しい日程のなかで「勝つチーム」を作っていくためには即効性が必要になってくるわけだ。教育や育成には西谷監督が言うように「時間をかけていく」必要があるが、準備期間もないままに勝利を求められる環境下では、選手の成長を待っている余裕がない。

 早々にチームをまとめ上げるために、選手への接し方は指導者による一方通行になりがちだ。この時により良い指導法を見出せない者は、現役時代などに自身が経験してきた暴力による「言い聞かせをする」ことで組織を強制的に前に進めようとする。結果を求められるなかで、選手の自立を待っていられず、恐怖心や一時期の感情の起伏を使って手綱を引っ張ろうとするのである。

 その教えは、指導者として、大人として、何よりも人として間違っている行為だ。勝利を追いかけるなかで、チームを成長させる過程で、暴力でしか選手を引っ張れないというのは、資質がないとも言える。ただ、それを助長しているのは、高校球界全体の日程であるのも忘れてはならない。
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古い体質から抜け出すために求められるもの