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ネト、ジョイスは超スピード昇格を果たしたが...あまりにも“ハイリスク”なエンジェルスのドラフト戦略<SLUGGER>

城ノ井道人

2023.06.05

ネト(左)とジョイス(右)はいずれもドラフトから1年未満でメジャー昇格を果たした。(C)Getty Images

 5月29日のホワイトソックス戦で、エンジェルス期待の新人ベン・ジョイスがデビューした。テネシー大に在籍していた昨年5月に105.5マイル(169.8キロ)を計測して注目を集め、昨年7月のドラフトでも話題になっていたため名前を知っていたファンも少なくないだろう。

 直前の26日には21年ドラフト1巡目(全体9位)で指名したサム・バックマンもデビューし、こちらは2イニングで1失点したが4奪三振。大学時代から定評のあった2シーム(高速シンカー)は平均で90マイル台後半を計測し、5月の2登板で24球を投げて1安打も許していない。

 彼らの前には、4月15日にザック・ネトのデビューがあった。22年ドラフト1巡目(全体13位)で指名した選手で、プロ入りから1年経たずしてのメジャーデビューは非常に珍しい。もちろん、22年のドラフト組では最速の昇格となった。

 ちなみに、昨年5月13日にデビューしたチェイス・シルセスも、21年ドラフト組では最も速いメジャーデビューを果たしている。2年連続でドラフト最速デビューの出世頭がエンジェルスから出たことになる。これらの事実から、近年のエンジェルスは非常にアグレッシブにプロスペクトを昇格させていることが分かる。
 
 エンジェルスといえば、近年は若手不毛の地という印象が強い。だが、10年以上前にはドラフトで成功を収めたこともあった。09年のドラフトでは、マイク・トラウト(全体25位)に加えて、ランドール・グリチック(全体24位)、ギャレット・リチャーズ(全体40位)、パトリック・コービン(2巡目)を指名。4人ともメジャーのレギュラー/ローテーション投手となり、トラウトとコービンに至っては1億ドルプレーヤーにまで大成した。

 だがこれ以降、エンジェルスはドラフトと若手育成に苦しむことになる。

 12年と13年は、アルバート・プーホルスやジョシュ・ハミルトンら大物FAを補強した関係で1巡目指名なし(12年は2巡指名権もなかった)。このあたりから育成の歯車が徐々に狂いだした。15年に就任したビリー・エプラーGMは大谷翔平獲得という大きな功績を残したが、ドラフトでの成果はいまひとつ。エプラーGMのドラフトは17年全体10位指名のジョー・アデルに代表されるように潜在能力が高い高校生を重視する傾向が強く、残念ながらその多くが現在のところ実を結んでいない。

 こうした失敗の歴史を学んだペリー・ミナシアン現GMは、就任後最初の21年ドラフトで全指名権を投手につぎ込むという驚きの戦略を展開した。コロナ禍で5巡目までしか指名がなかった前年のドラフトを除けば、全指名が投手というのは史上初。しかも20人中19人が大学生ということで、明らかに投手力が弱点のチームに即戦力を送り込むことを念頭に置いた指名だった。

 日本のプロ野球ではプロ新人選手が1年目から即チームの中心選手になることが珍しくないので、こうした指名戦略も理解できる。だが、MLBでは大学生であっても昇格に2~3年を要するのが一般的で、常に3~5年先を見据えての指名戦略を練る。今現在の弱点補強のためにドラフトを利用する考えを持つ球団は極めて例外的だ。