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プロ野球

さらば”世界の代打男”――高井保弘の「記録」と「伝説」に彩られた生涯

2019.12.13

高井の持つ通算代打ホームラン27本は世界記録。他にも多くの記録を持つ「史上最強の代打」だ。写真:朝日新聞社

高井の持つ通算代打ホームラン27本は世界記録。他にも多くの記録を持つ「史上最強の代打」だ。写真:朝日新聞社

 かつて阪急ブレーブスで活躍した”世界の代打男”、高井保弘氏が13日、腎不全のため兵庫県西宮市の病院で逝去した。74歳だった。

 その異名の通り、通算代打本塁打27本は世界記録。相手投手のクセを見抜く観察力と、たった一振りに懸ける集中力が生み出した。だが、当初”代打”となった経緯は不本意なものだった。

 1964年に阪急に入団したが、変化球を苦手にしていたことから、なかなか西本幸雄監督には起用してもらえなかった。二軍では首位打者1回、本塁打王2回、打点王2回と数々のタイトルを獲得したものの、一軍では控えに甘んじた。

 だが、高井氏は腐らずに"研究"を続けた。その徹底ぶりはすさまじく、当時阪急にいた元メジャーリーガーの助っ人ダリル・スペンサーが、相手投手をつぶさに観察し、クセを見抜いている姿に感銘を受けて自分も実践したほどだ。

 この観察眼が、1試合に1打席しかない代打に生かされた。これによって対戦経験のほとんどない投手も打つことができるようになり、代打本塁打を量産。74年には代打としては異例のオールスターに出場し、オープン戦で対戦しただけの松岡弘(ヤクルト)から代打逆転サヨナラ2ランを放ってMVPに選ばれた。相手投手のクセを記した「高井メモ」は、他の選手から「自分のベンツと交換してくれ」とまで懇願された”お宝”だった。
 
 81年9月3日の西武戦で放った27本目、最後の代打ホームランもまた伝説となっている。2対2の同点で迎えた9回裏に代打で起用された高井氏は、ベンチを出る間際に「お前ら帰る用意しとけや」と言い放った。そして宣言通りに見事サヨナラ弾を放ち、試合を終わらせたのだ。

 翌82年に引退。通算代打本塁打に加えて、通算代打サヨナラ本塁打3本も歴代1位。シーズン代打本塁打6本のパ・リーグ記録を持ち、通算代打打点も歴代2位。代打に関する記録のほとんどを有する高井氏は、まさに「史上最強の代打」だった。

文●筒居一孝(スラッガー編集部)

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