10月26日のドラフト会議で、高校生で唯一、有力1位候補に挙げられているのが前田悠伍(大阪桐蔭高)だ。1年秋から高校球界の話題を独占してきた左腕は、大学生の投手が豊作とされる今年のドラフトにあっても、その評価を落としていない。入学してからその姿を追い続けてきたライターが前田の2年半を振り返った。
【2023ドラフト候補ランキング最終版|1~10位】東洋大・細野、青山学院大・常広、国学院大・武内...1位は果たして<SLUGGER>
2021年の秋以降、常に高校野球界の話題の中心にいた前田。多くの野球ファンにとっては、「当然のドラフト1位候補」として認識されているのだろうが、ここまで追いかけてきた身としては、「本来いるべきポジションへ最後に戻ってきた」、そんな思いが強い。
大阪桐蔭高は今夏、大阪大会の決勝で履正社高に敗退した。ここで戦いが終わっていれば、前田のドラフトへ向けた評価は今頃さらに難しくなっていたのではないか。そう思えば、日本代表のエースとして投げ切ったU-18ワールドカップが、のちのち前田の野球人生を大きく左右したターニングポイントとして記憶されていくのかもしれない。
この大会の決勝、台湾戦で投げたボールは間違いなくドライチ候補にふさわしいものだった。高校野球のルールでは原則禁止のため、実戦では初めて取り入れた二段モーションからボリュームアップしたストレートは素晴らしかった。それまでは、勝負どころではチェンジアップを中心にテクニック重視の投球だった。だが、この時はストレートを軸にした組み立ての中で相手打者を押し込み、詰まらせ、より変化球も生かした。見たいと思っていた投球、前田自身も求めていたであろう投球を高校生活最後のマウンドで披露。しっかりと自分の力を示した上で、プロの評価を待つことになった。
前田が戦いの舞台に上がってきたのは1年秋だ。この年から大事なゲームを任され、チームを大阪、近畿、神宮大会の秋三冠へ導いた。翌春も主軸投手の一人としてセンバツを制覇し、世代No.1の呼び名がついたことは自然な流れだった。当時は「卒業まで負けないのではないか」、そんな気にさえなったが、春夏連覇へ挑んだ昨年の夏は準々決勝で下関国際高に逆転負けを喫してしまった。
勝つ喜びと大きな悔しさを味わって迎えた秋、ここでもつまずきが待っていた。大阪大会決勝では、のちに「高校3年間の公式戦で一番(の内容)」と振り返った履正社高戦で13奪三振の完封勝利。まさに完璧な内容だったが、試合終盤に左脇腹に違和感を覚えた。投球に影響はないとの診断を得て、近畿大会以降も登板を続けたものの、無意識に脇腹をかばううちに腕は下がり、体は横振りに。球も抜け、力は落ち、まるで前田らしくないボールを投げ続けることになった。
そして、「3年間で一番悪かった」と振り返る準決勝の仙台育英高戦(9回4失点6奪三振。6安打10四死球を与えながらも161球で完投勝利を飾った)を含む明治神宮大会を、前田は「どうやってごまかしながら投げようかと、そこしか考えてなくて。点数をつけるなら50点もなかったです」と振り返っている。それでも終わってみれば、チームは2年連続で秋を完全制覇した。「悪い時なりのベストを目指す」とは前田がよく口にする言葉で、まさに真骨頂発揮の投球とも言えたが、内情を知る由もない外野からは厳しい声が続いた。
「成長できていないんじゃないか」
「これではドラフト1位どころか......」
このような声に対して、本人は「前田は変わった、成長した、と思われるピッチングで相手を圧倒したい」とセンバツに挑んだ。そこからラストイヤーまで、前田の評価は微妙な位置で行き来を繰り返したように見えた。
両サイドに投げ分ける制球力。多彩で精度の高い変化球。打者心理を読んだ投球術。牽制を含めたフィールディング、メンタルの強さ、経験値の高さ......投手が勝つために必要とされる、実に多くの要素を備えている前田にとって、高校の段階での評価を左右する大きなポイントはストレートにあった。
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2021年の秋以降、常に高校野球界の話題の中心にいた前田。多くの野球ファンにとっては、「当然のドラフト1位候補」として認識されているのだろうが、ここまで追いかけてきた身としては、「本来いるべきポジションへ最後に戻ってきた」、そんな思いが強い。
大阪桐蔭高は今夏、大阪大会の決勝で履正社高に敗退した。ここで戦いが終わっていれば、前田のドラフトへ向けた評価は今頃さらに難しくなっていたのではないか。そう思えば、日本代表のエースとして投げ切ったU-18ワールドカップが、のちのち前田の野球人生を大きく左右したターニングポイントとして記憶されていくのかもしれない。
この大会の決勝、台湾戦で投げたボールは間違いなくドライチ候補にふさわしいものだった。高校野球のルールでは原則禁止のため、実戦では初めて取り入れた二段モーションからボリュームアップしたストレートは素晴らしかった。それまでは、勝負どころではチェンジアップを中心にテクニック重視の投球だった。だが、この時はストレートを軸にした組み立ての中で相手打者を押し込み、詰まらせ、より変化球も生かした。見たいと思っていた投球、前田自身も求めていたであろう投球を高校生活最後のマウンドで披露。しっかりと自分の力を示した上で、プロの評価を待つことになった。
前田が戦いの舞台に上がってきたのは1年秋だ。この年から大事なゲームを任され、チームを大阪、近畿、神宮大会の秋三冠へ導いた。翌春も主軸投手の一人としてセンバツを制覇し、世代No.1の呼び名がついたことは自然な流れだった。当時は「卒業まで負けないのではないか」、そんな気にさえなったが、春夏連覇へ挑んだ昨年の夏は準々決勝で下関国際高に逆転負けを喫してしまった。
勝つ喜びと大きな悔しさを味わって迎えた秋、ここでもつまずきが待っていた。大阪大会決勝では、のちに「高校3年間の公式戦で一番(の内容)」と振り返った履正社高戦で13奪三振の完封勝利。まさに完璧な内容だったが、試合終盤に左脇腹に違和感を覚えた。投球に影響はないとの診断を得て、近畿大会以降も登板を続けたものの、無意識に脇腹をかばううちに腕は下がり、体は横振りに。球も抜け、力は落ち、まるで前田らしくないボールを投げ続けることになった。
そして、「3年間で一番悪かった」と振り返る準決勝の仙台育英高戦(9回4失点6奪三振。6安打10四死球を与えながらも161球で完投勝利を飾った)を含む明治神宮大会を、前田は「どうやってごまかしながら投げようかと、そこしか考えてなくて。点数をつけるなら50点もなかったです」と振り返っている。それでも終わってみれば、チームは2年連続で秋を完全制覇した。「悪い時なりのベストを目指す」とは前田がよく口にする言葉で、まさに真骨頂発揮の投球とも言えたが、内情を知る由もない外野からは厳しい声が続いた。
「成長できていないんじゃないか」
「これではドラフト1位どころか......」
このような声に対して、本人は「前田は変わった、成長した、と思われるピッチングで相手を圧倒したい」とセンバツに挑んだ。そこからラストイヤーまで、前田の評価は微妙な位置で行き来を繰り返したように見えた。
両サイドに投げ分ける制球力。多彩で精度の高い変化球。打者心理を読んだ投球術。牽制を含めたフィールディング、メンタルの強さ、経験値の高さ......投手が勝つために必要とされる、実に多くの要素を備えている前田にとって、高校の段階での評価を左右する大きなポイントはストレートにあった。
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