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殿堂入り投票で「人格」をどこまで重視するべきなのか――確実に変わる時代の中で曖昧な姿勢は許されなくなってきた<SLUGGER>

ナガオ勝司

2024.01.31

通算477本塁打に加えてゴールドグラブも5回受賞しているベルトレーは“一発合格”で殿堂入りを果たした。(C)Getty Images

 芸能人のスキャンダルがニュースになり、その人の「人格」を問うような否定的な書き込みがSNSに氾濫する世の中だ。それが以前よりも少し息苦しく感じるのはきっと、去年の暮れに米野球殿堂入り投票したせいだろう。

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 現地1月23日、全米野球記者協会(BBWAA)に所属して10年以上の記者投票による米野球殿堂表彰の結果が発表され、メジャー通算3166安打、477本塁打のエイドリアン・ベルトレー(44)、同通算2519安打、打率.316のトッド・ヘルトン(50)、そして、捕手として史上最多の3度の首位打者を獲得したジョー・マウアー(40)の3人が選出された(敬称略。以下同)。

 私もその3人には、自信を持って投票した。

 念のため書いておくと、投票はネットで行う最優秀選手やサイ・ヤング賞とは違って、米野球殿堂から送られてきた投票用紙の候補者名の横の欄にチェックを入れ、期日の12月31日までにBBWAAに送付するという「オールドスクール」の形式で行われる。

 最優秀選手賞やサイ・ヤング賞は、記者が上位5人の候補を自由に選んで、順位によってポイントが変動する形だが、米野球殿堂の場合は、審査委員会によって予め30人近くの候補者が決まっている(今回は26人)。投票者はその中から殿堂入りにふさわしいと考える候補者を最大10人まで選び、得票率75%以上に達した候補者が晴れて殿堂入りする、という仕組みだ。

 それがどんな賞であれ、どんな形式であれ、投票者の考え方は如実に反映される。私のように「10人枠」をすべて使い切る者もいれば、「殿堂に見合うのはこの人物のみ」と、ほんの数人に投票する者もいる。私は今年まで前者の方だったが、10人すべてに「殿堂入りに値する」と確信を持って投票したわけではない。
 投票権を授かった7年前にアドバイスを仰いだ地元シカゴメディアの先輩諸兄の何人かから、「記者投票で選出されなかった候補者の受け皿=セカンドチャンスとなる『時代委員会』への選考に影響する1票もある」と聞かされたので、「10人枠」をすべて使い切ることが正しい投票だと思い込んでいたわけだ。

 今年の場合で言えば、MLB史上7人しかいない通算250本塁打以上&350盗塁を達成したボビー・アブレイユ元外野手(フィリーズほか)、2度のノーヒッター(1つは完全試合)を達成した左腕マーク・バーリー(ホワイトソックスほか)、殿堂入りしたマウアーと同時期に活躍し、04年からの6年間で他の捕手よりOPSが120以上も良かったビクター・マルティネス(インディアンス=現ガーディアンズほか)の3人だ。

 だから、彼らより有力だと考えて投票した次の4人が殿堂入りを逃したことにも、さほど驚きはなかった。

▼ビリー・ワグナー(アストロズほか)
史上6位の通算422セーブ、過去100年で史上2位の防御率2.31(750投球回以上/1位は殿堂入りクローザーのマリアーノ・リベラ)、通算7度のオールスター左腕。

▼フランシスコ・ロドリゲス(エンゼルスほか)
史上4位の通算437セーブ、史上最多のシーズン62セーブ、6度のオールスター選出。
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米国人記者と議論した「Integrity」や「Character」の問題