と言うのは、この名物オーナーは、アスレティックスがカンザスシティをフランチャイズにしていた時代(60~68年)から風変わりなアイデアを連発していたからだ。選手に金色ユニフォームを着させたり、オレンジ色のボールの使用を提案したり(64年にアストロドームでのデーゲームでの使用のみ認められた)、ロバをマスコットに起用して、選手を乗せて球場に登場させたり、ベンチに入れたり、また外野席の一部を柵で囲み、羊や孔雀の動物園を作ったり、さらに水着姿のミスUSAの女性をバットボーイに起用しようとしてリーグから禁止されたり……。
そんな人騒がせなアイデアマンのオーナーが、「打撃専門で守備をしない選手」の導入を言いだしたのだから、多くのファンが奇異な目で見たのも当然だった。
ところが73年からDH制を導入したア・リーグは、打撃成績が上向いて迫力ある打撃戦が増えたばかりか、投手も完投数が増えるなど個人成績の向上につながり、DH制に対するファンの理解と支持も広がったのだった。
そして翌々年の75年には日本のパ・リーグが採用。国際試合やオールスター、ワールドシリーズでのDH採用へと広がり、2022年からはナ・リーグも導入。日本でも、来年から高校野球や東京六大学野球、26年からはセ・リーグが採用することも決定している。
名物オーナーの奇抜とも言えるアイデアから生まれたDH制も、今や球界の常識と言えるまでになったのだ。
考えてみれば、DHの選手(打撃だけで守備をしない選手)というのは、ヨーロッパで生まれたラグビーやサッカーを変化(進化?)させ、アメリカン・フットボールというスポーツを生み出したアメリカならではの産物と言えるかもしれない。
アメフトでは選手がすべて専門化し、オフェンスの選手とディフェンスの選手に分かれ、プレースキック専門のキッカーまで存在する――ということは、ベースボールもまだまだ(同じように攻撃と守備で別々の選手が出場するなど)変化する余地がある、ということかもしれない。
文●玉木正之
【著者プロフィール】
たまき・まさゆき。1952年生まれ。東京大学教養学部中退。在学中から東京新聞、雑誌『GORO』『平凡パンチ』などで執筆を開始。日本で初めてスポーツライターを名乗る。現在の肩書きは、スポーツ文化評論家・音楽評論家。日本経済新聞や雑誌『ZAITEN』『スポーツゴジラ』等で執筆活動を続け、BSフジ『プライムニュース』等でコメンテーターとして出演。主な書籍は『スポーツは何か』(講談社現代新書)『今こそ「スポーツとは何か?」を考えてみよう!』(春陽堂)など。訳書にR・ホワイティング『和を以て日本となす』(角川文庫)ほか。
【記事】「95~96マイルならメジャーの打者にとっては打撃練習」――ピッチングニンジャが語る佐々木朗希“復活の条件”<SLUGGER>
そんな人騒がせなアイデアマンのオーナーが、「打撃専門で守備をしない選手」の導入を言いだしたのだから、多くのファンが奇異な目で見たのも当然だった。
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そして翌々年の75年には日本のパ・リーグが採用。国際試合やオールスター、ワールドシリーズでのDH採用へと広がり、2022年からはナ・リーグも導入。日本でも、来年から高校野球や東京六大学野球、26年からはセ・リーグが採用することも決定している。
名物オーナーの奇抜とも言えるアイデアから生まれたDH制も、今や球界の常識と言えるまでになったのだ。
考えてみれば、DHの選手(打撃だけで守備をしない選手)というのは、ヨーロッパで生まれたラグビーやサッカーを変化(進化?)させ、アメリカン・フットボールというスポーツを生み出したアメリカならではの産物と言えるかもしれない。
アメフトでは選手がすべて専門化し、オフェンスの選手とディフェンスの選手に分かれ、プレースキック専門のキッカーまで存在する――ということは、ベースボールもまだまだ(同じように攻撃と守備で別々の選手が出場するなど)変化する余地がある、ということかもしれない。
文●玉木正之
【著者プロフィール】
たまき・まさゆき。1952年生まれ。東京大学教養学部中退。在学中から東京新聞、雑誌『GORO』『平凡パンチ』などで執筆を開始。日本で初めてスポーツライターを名乗る。現在の肩書きは、スポーツ文化評論家・音楽評論家。日本経済新聞や雑誌『ZAITEN』『スポーツゴジラ』等で執筆活動を続け、BSフジ『プライムニュース』等でコメンテーターとして出演。主な書籍は『スポーツは何か』(講談社現代新書)『今こそ「スポーツとは何か?」を考えてみよう!』(春陽堂)など。訳書にR・ホワイティング『和を以て日本となす』(角川文庫)ほか。
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