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松井秀喜氏を抜く32本塁打で“シン・ゴジラ”へ――「野球人生最悪」の不振を乗り越えて鈴木誠也が勝ち取った勲章<SLUGGER>

ナガオ勝司

2025.09.30

 そこに至るまでの道のりは、決して平坦ではなかった。いや、むしろ、彼自身が「今までの野球人生で最悪だと思う」と漏らすほどのスランプを経て残された「苦闘の痕跡」そのものと言ってもいいだろう。

 前半戦、出場92試合で25本塁打、77打点、OPS.867とメジャーリーグ移籍後の最高成績を残していた鈴木は、後半戦が始まった7月18日から9月10日までの出場48試合でわずか2本塁打、14打点しか叩き出すことができなかった。その間のOPSは.603。前半戦終了時、「このままのペースなら40本塁打、130打点も夢じゃない」などと言われていたのが嘘のような急降下だった。当時、鈴木はこう言っている。

「今年の前半戦は、4回に1回ぐらいの確率で出るヒットが、長打になることが多かった。それが後半戦になってから、その4回に1回が野手の正面を突いたり、相手にファインプレーされたりで、たまにシングル(・ヒット)は出るけど、そのうち、シングルさえ出なくなった。良くなる感覚がないと言うか、ここまで感覚がないなんてことは、今まで経験したことがない」

 良かった時の自分に戻そうと、ボール球を振ったり、必要以上の力みにつながったり。練習ではタイミングの取り方、バットの出し方、上半身や軸足の動かし方......など、やるべきことはすべてやった。相手投手の配球の研究や、打席内でのアレンジも手を抜くことなくやったはずだった。それでも結果が出ない日々が、およそ2ヵ月近く続いた。

 出口の見えないトンネル。一筋の光も見えない真っ黒な闇。彼は自分自身に怒り、どうしようもない失望と数え切れない落胆の日々を過ごしたが、自ら諦めることだけはしなかった。

「まあ、もう31歳なんで若くはないんですけど、野球人生はまだまだ続いていくんでね。今年で引退するとかだったら、もうとっくの昔に諦めてるでしょうけど、今、いろいろやってることが、シーズン中には出なくても、プレーオフで出るかもしれないし、来年になったら出るかもしれないし。開き直ってるわけじゃないけど、今は勉強してるんだと思ってる」

 悪い時に悪いことは重なるもので、9月5日~10日まで6試合連続でシングルヒットを記録し、復活の予兆なものが出始めた矢先に体調を崩し、三日三晩、食事ができないほど苦しんだという。

 まさに八方塞がり。何をやっても上手く行かなくなった頃、今季前半戦、鈴木とともにチームの快進撃を引っ張った主砲カイル・タッカーが脹脛の怪我で戦線離脱。わずか数日で何kgか体重が落ちるほど状態が悪かったのに、鈴木は17日のパイレーツ戦で「指名打者」としてではなく、「右翼手」として復帰した。当時、彼はこう言っている。

「出れるか? って言うから『出る』って返事しただけ。『途中からどうだ?』って言われたけど、『試合に出るからには、最初から最後まで出る』って言いました」

 18日のレッズ戦では、8月31日以来の長打となる二塁打を放ったものの、試合後のロッカーに行くと、足を引きずるように歩いていたり、まるでフルラウンドを闘い終えたボクサーのように、椅子に座って呆然としていたり。それはそれは酷い姿だった。
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