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【玉木正之のベースボール今昔物語:第21回】ドジャースも導入した日本式の“2人同時打撃練習"を最初にメジャーへ伝えた元最強助っ人との思い出<SLUGGER>

玉木正之

2025.12.29

 89年、私は日本で封切られた映画『メジャーリーグ』の取材のため、インディアンスの本拠地があるクリーブランドを訪れた。チャーリー・シーンやトム・ベレンジャーがインディアンスの選手に扮して奇跡の優勝に導く痛快映画の舞台となった球団を見学していた。

 当然、マニエル打撃コーチにも会って、試合前のフィールドで選手たちの選手の打撃練習を見ながらインタビューに応じてもらった。

「俺は、(バファローズの)西本(幸雄監督)は大好きだった。彼は何でも自由にやらせてくれたからね。しかし(スワローズの)広岡(達朗監督)は大嫌いだった。練習のことだけでなく、食事のことまで細かくウルサく言ってきたからね。通訳が可哀想だったよ」

 そんな話を気軽に始めたマニエルだったが、「日本で一番素晴らしいと思ったのが、フィールドでのバッティング練習を2人同時に行えたことだ」と言いだした。

「試合前の打撃練習でも、試合のない時の練習でも、ケージを2つ、バッティング・ピッチャーも2人用意して、2人のバッターが同時に思いきりバッティングできるのは素晴らしいと思ったね。だから、ここ(インディアンス)でも、2人のバッティング・ピッチャーを使って、彼らが打球の危険にさらされないようネットで投手を囲むジャパニーズ・スタイルを取り入れ、2人のバッターが同時にバッティング練習をさせているよ」
 
 神宮球場でインタビューした時は球団職員に付き添われ、仏頂面のままありきたりの答えしか口にしてくれなかったマニエルも、この時は笑顔で自由に離してくれた。

 そんなマニエルは、一時クリーブランドを離れるが94年に打撃コーチに復帰。2000年から03年まで監督を務めると、01年には地区優勝。05年から13年まではフィリーズの監督として地区5連覇(07~11年)、08年には世界一も達成している。インディアンス時代の教え子の一人が、現在ドジャースの監督を務める沖縄生まれの日本人ハーフ、デーブ・ロバーツだったのだ。

 ロバーツ監督が“日本式2打者同時打撃練習”を取り入れたのは、明らかにマニエルの影響だろう。ひいてはドジャースも、日本式打撃練習でワールドシリーズ連覇に備えたというわけだ。

 日本がMLBに与えた影響は意外なところにあった。

文●玉木正之

【著者プロフィール】
たまき・まさゆき。1952年生まれ。東京大学教養学部中退。在学中から東京新聞、雑誌『GORO』『平凡パンチ』などで執筆を開始。日本で初めてスポーツライターを名乗る。現在の肩書きは、スポーツ文化評論家・音楽評論家。日本経済新聞や雑誌『ZAITEN』『スポーツゴジラ』等で執筆活動を続け、BSフジ『プライムニュース』等でコメンテーターとして出演。主な書籍は『スポーツは何か』(講談社現代新書)『今こそ「スポーツとは何か?」を考えてみよう!』(春陽堂)など。訳書にR・ホワイティング『和を以て日本となす』(角川文庫)ほか。
 

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