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【追悼ジョー・モーガン】セイバーメトリクスを嫌い、勝負のアヤや数値化できない感覚を大切にした、偉大なる反面教師

豊浦彰太郞

2020.10.16

 引退後は長くブロードキャスターを務めた。特にESPNのアナウンサージョン・ミラーとのコンビは有名で、2006年にはWBCでの日本の優勝をサンディエゴから世界に届けた。名物解説として人気を博した一方で、彼の野球観は保守的なことで知られていた。21世紀以降急速に発展・普及したセイバーメトリクスに否定的で、勝負のアヤや数値化できない感覚を重視するモーガンの解説は、新世代のファンからの批判や嘲笑の対象になった。

 当時、そのものずばり『Fire Joe Morgan』(ジョー・モーガンをクビにしろ)という名のスポーツブログがあったほどで、そこではしばしばモーガンの解説が槍玉に挙げられた。マイケル・ルイスのベストセラー『マネー・ボール』においても、モーガンはオールドスクールな抵抗勢力の代表者として描かれている。

 だが、皮肉なことに現役時代のモーガンは、セイバーメトリクスの観点から見て最も高く評価される存在だった。いわゆる打撃三冠ではリーグベスト3に入ったことすら一度もなかったが、ずば抜けた選球眼で出塁率リーグ1位が4度。出塁率+長打率で算出されるOPSでは2度リーグベストを記録している(もちろん、当時はOPSなどという概念すら生まれていなかった)。また、盗塁成功率の高さや守備的なポジションである二塁で攻撃力を発揮した点も、セイバーメトリクスによって正当に評価されることになった。
 
 走攻守の総合的な貢献度を図るWAR(FanGraphs版)は通算98.8で、二塁手としては歴代4位。彼より上位のロジャース・ホーンスビー、エディ・コリンズ、ナップ・ラジョイの3人は、ベースボールのあり方が現代とは異なる1920年代以前の選手だ。実際、セイバーメトリクスの父ビル・ジェームズは、Win Shareという彼独自のWARに似た指標により、歴代ナンバーワン二塁手にモーガンを選んでいる。

 自分を高く評価するセイバーを毛嫌いしたモーガン。しかし、ぼくは彼を嗤うことはできない。新しい価値観を受け入れることに抵抗するのは野球界に限ったことではなく、どこの国にも、いつの時代にもあることだ。「ゲームの流れ」や「達人の境地」、「経験とカン」という無形なものを、客観的に証明したいとの思いがあったからこそ、それがセイバーメトリクスの発展につながった。

 もし、ベースボールがこの先100年も続くなら、統計学では解明できない次世代の価値観が必ず生まれるはずだ。それを反面教師として教えてくれたのが、他ならぬモーガンだった。だから、ぼくには「Fire Joe Morgan」と言う気はさらさらない。

 彼に贈る言葉はただ一つ。「Thank you, Little Joe, R. I. P.」。

文●豊浦彰太郎

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