専門5誌オリジナル情報満載のスポーツ総合サイト

  • サッカーダイジェスト
  • WORLD SOCCER DIGEST
  • スマッシュ
  • DUNK SHOT
  • Slugger
MLB

「スーパースター不在」の現代MLBを体現するレイズ野球は次代のトレンドとなるのか?

久保田市郎(SLUGGER編集長)

2020.10.20

 つまり、レイズ野球からは真のスーパースターは生まれにくい。ある意味で、それは当然のことでもある。彼らのスタイルはあくまでも「弱者の戦略」であり、スーパースターがチームにいないことを前提に出発しているからだ。だが、レイズの戦略を他の球団が踏襲することで、ますます「個」の存在が薄れていくことを危惧する向きは少なくない(実際、すでにそうなりつつある側面も否定できない)。スーパースター不在が叫ばれて久しいMLBで、この危機感はかなり深刻なものとして共有されている。

 ただ、だからと言ってレイズの野球がつまらないかというとそれも違う。先に述べたように、固定概念を次々にひっくり返す彼らの試合は、スター同士の対決とはまた違った意味でエキサイティングだ。そこに何とも言えないジレンマを感じるのは僕だけではないだろう。

 それだけに、ドジャースと対戦する今回のワールドシリーズは非常に興味深い。チーム作りの根幹部分においてはレイズとかなり共通点が多いドジャース(それもそのはず、編成総責任者を務めるアンドリュー・フリードマンはかつてレイズのGMだった)だが、同時にムーキー・ベッツやコディ・ベリンジャーといった強烈な「個」を持ったスーパースターもいる。
 
 アンダードッグのシンデレラ・ストーリー完結という意味ではレイズを応援したくなる。『マネー・ボール』の副題である「The Art of Winning An Unfair Game」、すなわち「不公平なゲームで勝利を収める美学」をビーンに代わって成就することは同時に、ここ20年、球界を席捲してきたセイバーメトリクスの到達点となるだろう。だが、レイズの優勝によって、球界の没個性化がさらに進むようであれば、それはそれであまり歓迎できない事態だ。

 シリーズが終わった時、そこにMLBの未来を指し示すヒントのようなものは見つかるのか。一人のファンとして、自分はどんな思いを抱くのか。今の時点ではまったく読めないが、だからこそ楽しみで仕方がない。

文●久保田市郎(SLUGGER編集長)
NEXT
PAGE

RECOMMENDオススメ情報

MAGAZINE雑誌最新号