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プロ野球

「強い気持ち」と「繊細さ」——中日スカウトが語る、吉見一起を一流投手に押し上げた「二面性」

氏原英明

2020.11.10

「練習グラウンドに行って、ブルペンのピッチング練習を見させてもらう時がある。間近でどんな球質であるかをもちろん見るけど、そこだけやない。例えば、ピッチング練習の終わりに『次の球、ラスト』と言って、どんな球を投げるかが大事や。どういう終わり方をするかを重視して見ている。と言うのも、アマチュアの選手でよく見かけるけど、最後の球を思ったところに投げられていないのに、そこで終わる投手がいる。そういうタイプはプロの世界では厳しいと思う。なぜかというと、結果オーライで物事を済ませる傾向があるから。つまり反省ができない選手で、試合で勝てばそれで終わってしまう。内容を突き詰めることができない投手は大成しない」

 ピッチングは大胆でいいが、一方で繊細さもなければならない。米村が見るのは、日常の心がけだ。もっとも、米村がスカウティングをする中でそこを重視するようになったのは、吉見と出会ってからだ。

 吉見は社会人野球のトヨタ自動車からのプロ入りで、米村はドラフト前の最終局面でのスカウティングに関わったわけではない。金光大阪高校時代の吉見のある所作に触れ、当時は参考程度にしていたものが確信と変わっていったのだ。

 これはアマチュアの選手たちが大いに参考にしてもらいたいのだが、米村はこう言った。

「吉見は自分の立つマウンド、自分の投げるブルペンを大切にしていた。自分でいつも整備をしていて、誰にも手を触らせなかったんや。普通、高校3年生くらいやと練習後のグラウンド整備は後輩に任せたりするもんやろ。でも、吉見はそこだけは自分でやっていた。ここを守ることが自分に対しての責任だという気持ちを持っていた。ピッチャーは時に繊細でなければならないということや」

 実働15年間で90勝56敗、防御率2.94、最多勝2回、最優秀防御率のタイトルを獲得。ストレートが150キロに満たなくとも、日本球界を代表する投手に上り詰めた。引退セレモニーには、千賀滉大(ソフトバンク)らも駆けつけた。吉見の背中を必死に追いかけ、今や絶対的なエースとなった大野雄大は涙を流していた。

 引退するその日まで、マウンドを大事に守り抜いてきた。

 その姿勢こそ、吉見一起そのものである。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。

 

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