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球界屈指の凄腕GM、ジェフ・ルーノーの徹底した勝利至上主義とは?【新MLB珍獣図鑑】

2019.11.23

ルーノーの姿勢は、「勝利のためには手段を選ばない」という考え方の極北にあるといっていいだろう。(C)Getty Images

ルーノーの姿勢は、「勝利のためには手段を選ばない」という考え方の極北にあるといっていいだろう。(C)Getty Images

 ここで思い出されるのが、15年に起きたカーディナルス球団職員によるアストロズのデーターベース不正侵入事件だ。この時、ルーノーは「被害者」だったわけだが、犯人のクリス・コレアは自らの罪を認めつつ、「アストロズも他球団のコンピュータに不正アクセスしていた」と証言していたのだ。スパイ事件を受け、「やっぱり……」と思った関係者は少なくないだろう。ちなみにコレアは、事件発覚直後、「(この件に)驚いていないのは誰でしょう?」と意味深なツイートをしている。

 そんな事情もあり、レッドソックスがアストロズを4勝1敗で下した際は、多くの球界関係者が小躍りして喜んだと言われている。実はレッドソックスも最新機器を使ったサイン盗みでペナルティを受けるなど、およそ清廉潔白とは程遠いのだが、それでもアストロズの負けを喜ぶ人間が多かったという事実が、ルーノーの嫌われっぷりを証明している。

 今のアストロズの気風について、ある球界関係者は「あいつらは周りからどう思われようとまったく気にしない」と語っている。このような勝利至上主義に嫌気がさしたのか、ここ数年で何人ものフロントスタッフが他球団へ流出している。ルーノーの右腕としてデータ改革を支えてきた元NASA科学者のシグ・メダルも、オリオールズへ去った。「ジェフは『成功した組織にはよくあること』と言うけど、そうじゃない。もしそこにいたければ残るものさ」とは、また別の球界関係者のコメントだ。「勝利のためには手段を選ばない」という考え方は、アメリカの、特にスポーツ界では良くも悪くも広く受け入れられているが、ルーノーの姿勢はその極北にあると言っていいだろう。
 
 そう考えると、いつかルーノーを主人公にした映画を作られてもおかしくない。頭脳明晰で有能だが倫理観が欠如した主人公が、成功を求めてがむしゃらに突っ走るが……というストーリーはいかにも映画向きではないか。そう言えば、フェイスブックの創始者マーク・ザッカーバーグを描いた『ソーシャル・ネットワーク』がまさにそんな作品だった。

 もっとも、『マネーボール』のビーンと違ってルーノーには人間臭い魅力がほとんど感じられないから、映画化されてもヒットしないか……。

PROFILE
ジェフ・ルーノー。1966年6月8日、メキシコシティ出身。ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院でMBAを取得後、マッキンゼー&カンパニーなどを経て2003年にカーディナルス入り。中南米でのアカデミー設立やドラフトで手腕を発揮し、06年にスカウト&育成部長に昇進。11年オフにアストロズGMに就任すると、タンキングを敢行しながらマイナー組織を整備。データ部門も強化し、15年にプレーオフ進出。17年には球団創設以来初の世界一をもたらした。

文●久保田市郎(スラッガー編集部)

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