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プロ野球

奥川恭伸は「マエケン?」現役スカウトが語る本当の評価

氏原英明

2019.10.15

 一方で、危惧されているのが将来性だ。「完成度が高い」と称される奥川は、現時点でもかなりの質を有しているだけに、それは一方でこれ以上の伸びしろが期待できない、と言っているようにも聞こえる。

 奥川の最大値はもう見えているのだろうか。

「完成度は高いけど、伸びしもある。すでにその姿を見せていると俺は思うね。彼の努力の成果だと思いますけど、今年の夏の甲子園では春より球威を増してきていた。球威もあり、肝心な球のキレ、どれも落ちないで、154kmをアベレージで残していけるようになった。その時点で、奥川には『もっと伸びしろがあるんじゃないか』と思わせる姿だったよね。彼には上半身の強さを感じるけど、下半身はまだこれから。しっかり鍛えていけば、今後は5~10kgくらい体重は増すだろうし、そうなればスピードがまだ出てくる。その上でアウトローに投げられますから、無敵でしょう」

 最後に、もし奥川がプロ入りするとしたら、即戦力なのかどうか。また、デビューはいつくらいになるのだろうかという期待値も考察していきたい。
 
「うまくいったら、1年目から2桁勝利を挙げられるかもしれない。でも、そうあるべきではない。最低でも5年、最高で10年、2桁勝利ができる能力が彼にはあるわけやから、実際はそうなるように育成しなきゃいけないと思う。

 プロは毎日、厳しいトレーニングをするから疲れてくる。10年以上、先のことを考えると、1年間は大切にやらないといけない。しっかり下半身を使った投球フォームを根付かせるには、最低でもそれくらいはかかるでしょう。そこを怠たると、2、3年の活躍で終わってしまう。もし、現場が1年目から使いたいと言ったとしたら、『ちょっと待ってください』と言うと思います」

 米村氏のこの言葉は、スカウトらしい意見と言えるだろう。
 彼ほどの優れたボールを投げていると「1年目から即戦力」という意見は否応なくでてくる。実際に、「1年目に勝つ」ということだけに力点を絞れば、奥川クラスのポテンシャル、そして、クレバーさを加味すれば、そこそこやれる実力はあるだろう。

 しかし、スカウトが見ていかなければいけないのは、「今」だけの実力ではない。

 将来的にどれほどの可能性があって、チームにどれだけのプラス効果をもたらすか。

 1年で10勝しても、5年後にローテーションからいなくなっていたり、チームの顔になりきれていないようでは、どれだけ敏腕なスカウトがいてもチームは強くなっていかない。

 日本を代表するほどの逸材を獲得したからには、「育てる責任」をそれだけ持たなければいけない。

「最低でも5年は2桁勝利ができる」

 それが奥川の評価なのだから。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。

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