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高校野球

指導者が変わらなければいけない時代――4年ぶりのセンバツ準々決勝で福岡大大濠・八木監督が下した英断〈SLUGGER〉

氏原英明

2021.03.30

 もっとも、八木監督を槍玉にあげようという意図があったわけではない。どんな指揮官も甲子園に来れば勝利を目指す。私学となれば、周囲からの期待も背負っているだろう。結果を残したい気持ちは理解できる。

 しかし、育成年代の選手を預かっている以上、勝敗を度外視してでも守らないといけないことがある。何とか八木監督に変わってほしいという願いがあったのだ。

 この後、日本高野連は少しずつ改革へのペダルを踏み始める。18年にタイブレーク制度導入。実は、これには三浦が出場した17年のセンバツが関係している。この大会では三浦の他に3人の投手が190球以上を投じるなど異例な事態が起きたからだった。さらに18年には、金足農の吉田輝星(現日本ハム)が県大会から甲子園の決勝戦の5回までを一人で投げ抜く激投を繰り広げたことで、投手の登板過多をめぐる議論が加速度的にヒートアップしていった。

 まずこの年、新潟県高野連が独自の球数制限制度導入を発表。これは翻されるが、20年から1週間500球の球数制限のルールが適用することになったわけだ。

 こうした中で、八木監督も考え方を変えていったわけである。彼はこう話している。
 
「球数制限や日程の問題があり、エース一人で投げ切ることは物理的に難しくなってきていると感じています。投手は枚数が多くいるに越したことはないですし、これからの指導者に求められているのは、エースをどのタイミングで投げさせていくかではないかと思っています。うちは今日、馬場ができるだけ長いイニングを投げて勝つことを前提にしていました。その中で、毛利がいかに次の戦いのではいい状態で投げて勝っていけるか。そう考えるようになりました」

 今大会、複数投手を登板させる指揮官は増えた。

 この5年間で世間の情勢も変わり、新たなルールも導入された。指導者に求められるものも、それに伴い様変わりしているということなのだろう。

 もちろん、今大会に出場している指導者が全員、八木監督のような考えになっているわけではない。得点差があっても、登板過多と思える球数であっても、エースに頼り切る指揮官が存在する。

 だが、いずれ指揮官が変わらなければいけない時が来る。4年ぶりに帰ってきた八木監督が今大会で見せたように。その変化が高校野球界を進化させる。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。

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